腕利き美人古物商・陶子は贋作をつかまされる ー 北森 鴻「狐罠」

一匹狼ながら目利きの古物商「冬狐堂」こと宇佐見陶子シリーズの連作ミステリー。
今回は、陶子が贋作をつかまされてしまうことから始まる贋作(フェイク)ミステリーが『北森 鴻「狐罠」(講談社文庫)』である

【あらすじと注目ポイント】

発端は、宇佐見陶子がヤリテ(いろんな意味で)の古物商 橘薫堂から発掘モノ(古墳などから出土した遺物。ほとんど盗掘などの非合法的手段によるものが多いらしい)と称する「唐様切子紺碧椀}(有り体にいうと青色のガラスの椀ってことか?)を手に入れるのだが、それが偽物。おまけに、それを買った時の道具立てが、贋作のフッ化水素の臭いに気付かないようにするために茶室で、茶を焙じて鼻を効かなくするという「目利き殺し」(品物の欠損を、あの手この手でごまかす技術)を仕掛けられてのこと。
プライドをいたく傷つけられた陶子は、橘薫堂に、目利き殺しの仕返しを謀むが、そのうち、橘薫堂の右腕とも称される女性従業員が殺されて・・・。
といったところからスタートする。

この「狐罠」で、陶子の別れた旦那さんが登場したり、殺人事件を調べる警察官が、かなり癖のある刑事二人だったり、キャストは豊富なのだが、なんといっても読んでいてワクワクするのは、贋作師の塩見老人と出会い、彼と共同で橘薫堂を仕掛けるための贋作を作っていく過程の様々な贋作の蘊蓄と、この世界に蠕いていた世界各地の贋作師のエピソードだろう。

例えば、室町前期の漆器の贋作の材料に、法隆寺の昭和の大改修の時に闇で手に入れた古材をつかうくだりや、漆のひび割れた古色を出すために人の脂肪を漆器も表面に塗り込んだり、といった小技やメーヘレンという贋作師がフェルメールの多くの作品の贋作を暴露したのだが、美術評論家や美術館は自らの鑑定の不確かさを認めたくないため、贋作師が贋作を白状しているのに専門家は認めないという事態が起きてしまったといった話が散りばめられていて、何時の間にか、なんでも鑑定団的世界と、ギャラリーフェイクの「贋作」的世界に引き込まれていってしまうこと間違いない。

展開は、この陶子の目利き殺しの意趣返しと殺人事件の犯人捜しが、陶子のまわりを交錯しながら進んでいき、橘薫堂が、戦後まもない頃のフェルナン・ルグロの贋作騒動に絡んだ、叩けばホコリがもうもうと立ちそうな話や、大英博物館ケミカルラボ出身の凄腕の元キュレーター(美術館や博物館の資料収集や研究の運営にも携わる上級学芸員みたいなものらしい)が橘薫堂側の贋作鑑定や偽造に関わってきたり、といったかなり盛りだくさんなものを絡みながら進んでいくのだが、結末は、「えっ、あんた味方と思っていたのになー」といった感じ。

【レビュアーから一言】

文庫本の解説では本当の古物商の世界や贋作づくりの世界とは、ちょっと違うみたいなことが書いてあったが、野暮なことは言いっこなし。所詮、つくりごとのミステリーなのだから、作者がつくり出す虚構の世界に、どっぷりと浸ろうではありませんか。

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