澪に「料理屋」と「恋」のライバル登場 ー 高田郁「花散らしの雨」

水害で潰れた、奉公していた商家の「御寮はん」と一緒に、上方から江戸へやってきて、「つる家」という小さな飯屋で名物料理を出す、下がり眉毛の女性料理人・澪の活躍を描く「みをつくし」シリーズの第2弾が『高田 郁 「みをつくし料理帖 花散らしの雨」(時代小説文庫)』。

【収録と注目ポイント】

収録は

「俎橋からーほろにが蕗ご飯」
「花散らしの雨ーこぼれ梅」
「一粒符ーなめらか葛饅頭」
「銀菊ー忍び瓜」

となっていて、再興した「つる家」も以前にもまして、旨い料理を食わす飯屋として評判をとっていくが、そこは世の習いである、「巨大なライバルが登場」という成り上がりものにはつきものの展開なのだが、こうこないと面白くない。そしてこのライバル、強力でしかも悪辣なほど、主人公への応援のし甲斐があるのだが、登龍楼はそれにふさわしい、かなりの悪玉である。

「俎橋」は新しい店に移った直後の話。前の店に比べ、どうやら大きめの店らしく、いくつかの小部屋もあるようす。戯作者の新しい客もついてくるなど、店は繁盛して、客も多くなったため、「ふき」という娘を新しく雇う。そんな時、澪の考案する新しい料理が、登龍楼にほぼ同時期に出されるようになる。真似するには、品書きにでるまでの期間が尋常でない短さ。誰かが澪の考案を登龍楼に横流しをしているのか?といった展開で、新しいキャストのふきと彼女の弟、そして、小松原の本当の正体らしいものの片鱗がわかってくる。

「花散らしの雨」は「つる家」の前に本直し(味醂を焼酎で割ったものらしい)を商う男が行き倒れるところから始まる。この話の筋は二通り流れていて、一つは、この行き倒れの男が、仕えている店(流山の相模屋という店らしい)の味醂を大きくもり立てる話と澪の幼なじみの野江(今はあさひ太夫という売れっ子の花魁だ)が客に怪我を負わされたのを心配して吉原に忍び込み、あさひ太夫に一目会おうと悪戦苦闘する話。お店の成り上がり話としては、ちょっと休憩という感じだが、「あさひ太夫」の話は今後の展開に重要になるはずだから要注意。(ちなみに、「こぼれ梅」とは味醂の絞り粕のことらしい)

「一粒符」は澪の住む長屋に住んでいる大工の伊勢三と澪の店を手伝ってくれている女房のおりょう、子どもの太一(太一は幼い頃、火事で焼け出されていたのを、この夫婦が引き取った養子だ)の話。太一が麻疹(はしか)にかかり、治ったと思ったら、今度はおりょうがかかってしまう。大人になってからの麻疹は重く、おりょうは生死の境をさまよう。
おりょうを此岸に呼び戻したのは、太一の「一粒符」ってなことで、一粒符が何かってのは、本編の中で確認してほしい。結構、泣かせる母子の話だ。それと、働き者ではあるが曲者らしい「おりう」という婆さんの登場と、新しい店の馴染みになった清右衛門が有名な戯作者であることが判明する。

「銀菊」では、新たなキャスト、両替商の伊勢屋の跡取り娘「美緒」が登場。美緒は源斉に憧れていて、源斉の通う「つる家」の様子をうかがいに来る(源斉の思い人が澪ではないかと疑って)のだが、料理と店の居心地の良さに店の常連となっていく話と、新作の「蛸と胡瓜の酢の物」が町方の評判は良いのに武家の客は減っていく。それをなんとかしようと考案していく話が交錯する。「美緒」の登場をきっかけに、恋愛話の風合いも強まっていく。

【レビュアーから一言】

第二弾となって、「ふき」や「美緒」といった新しいキャストも登場してきて、話の展開のほうも、料理ものから進展して、「繁盛記もの」、「恋愛もの」の風情もでてきて、ますます深みが増してきている。とりわけ登龍楼との料理争いは、シリーズのこれからの「幹」ともなる部分ともなりますね。

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