「しゃべくり」はますます快調 ー 黒崎 緑 「しゃべくり探偵の四季」

見事な「しゃべくりミステリー」、というか「漫才的ミステリー」というか、あっとおどろくミステリーの叙述の新方式を披露した「しゃべくり探偵」の続編が『黒崎 緑 「しゃべくり探偵の四季ーボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの新冒険ー」(創元推理文庫)』である。

【収録と注目ポイント】

収録は「騒々しい幽霊」「奇妙なロック歌手」「海の誘い」「高原の輝き」「注文の多い理髪店」「戸惑う婚約者」「怪しいアルバイト」の7篇。

ところが、「しゃべくり探偵」で見せた「保住」と「和戸くん」のコンビのしゃべくりミステリーは最
初の2篇までで、あとは、「保住」は、第三者のように事件の当事者たちの周辺にぼやっと現れてきては事件を解決していく(「注文の多い理髪店」に至っては店主の話の中にしか登場してこない)という、存在感が、大阪のたこ焼のように、どーんとあった前回とくらべ、なんとなく軽やかである。とはいっても、安楽椅子探偵は健在。事件の関係者からの聞き取りで、事件を推理してくという構図は変わらない。

第1話の「騒々しい幽霊」は「和戸くん」の妹が結婚することになり、新居を祖母の住んでいた家に構えたのだが、そこに幽霊、というかポルターガイストがでる。
人気がないところで電灯がついたり、茶碗や皿が割れている。しかも、その茶碗や皿は、家に置いてあるものとは違うものばかり、というもの。ネタは、最近の「お宝ブーム」に象徴される古びた皿や茶碗が原因で、伏線の張り方が見事なのだが、それにもまして、和戸の妹の顔をネタにした、関西の漫才さながらの、かけあいが楽しめる。

第2話は、「奇妙なロック歌手」は、最近売りだしそうなアマチュア・ロック・バンドを結成している友人の家が盗みに入られる。それも、送った覚えのない懸賞の温泉旅行に当選して旅行している最中のこと。
どうやら、その懸賞自体が、仕組まれたものらしい感じがするのだが、盗まれたものは旅行料金をちょっと上回るぐらいの現金とエレキギター。エレキギターは近くのごみ捨て場に捨てられているのが発見されるから、どうも仕掛けのわりに儲からなかった窃盗事件。しかもエレキギターは、捨てられていたのをチューニングしたら、音がよくなったらしいから、盗難にあったほうも、あながち損ばかりではない。といった妙な事件の謎。

ネタバレは、若気の至りを、後で責任をとらないといけなくなるとは、しんどいよねー、といったあたり。ヴィンテージギターがどんなものか、よくわかっていないので、つまらない寸評はやめよう。

第3話、第4話は、夏休み中の事件。どこにそんな金があったのか、「保住」は沖縄やら避暑地の高原に出没している。

第3話は沖縄でのスキューバダイビングでの事件。そのダイビングの現場では、最近、ダイバーが溺れ死んでいるのだが、その死んだあたりで、ダイビングスクールに参加している学生(友人が予約していたものを安く回してもらった設定)が、珊瑚の刻まれた、ダイビングスクールのインストラクターの名前(ユミさんとかなってたな。)を発見する。自然を愛しているはずのインストラクターがなぜ珊瑚を傷つけたのか、といった事件。

4番目の話でも、語り部は、3番目の話の学生で友人から予約を回されて、高原のテニススクールに参加しているらしい設定。学生らしいといえば学生らしいが、ミーハーなことも確かである。ここで出会うのは、近くの沼で人魂がでるという話。ここに深窓の令嬢というか、犬をつれたお嬢さまがからんでくるから、話が恋愛沙汰になりそうになって、かえって読者の謎解きを混乱させる。

まあ、どちらも色恋沙汰の果てという感じなのだが、この話の語り部の学生、確かにロクな女(?)に惚れないなー。

5話めは、理髪店で刑事が近くで殺されたヤーさんの事件の聞き込みをする場面の設定。理髪店の親父のおしゃべりがやたら長く続き、その中で登場してくる「保住」が事件を解決していく様を、この親父が語るのが面白い。ネタ的には、「オリエント急行」なのだが、この理髪店の親父の語り口が楽しめる作品でもある。

6話目の「戸惑う婚約者」は、大学の学園祭での話。といっても事件は、学園祭でおきるのではなく、学園祭の怪しげな占い小屋に迷い込んだ女の子が語る、その女の子の兄の妙な結婚話の解決をするもの。その結婚話と言うのは、なにやら新興宗教が絡んでいて、その教祖さまの指名する女性と、その兄が結婚するらしい。だが、その女性というのが言葉少なだが、やけに美人で、おまけにその教祖は、兄にお金までくれているらしい。金をまきあげるなら、よくある話だが、金までくれて美人と結婚を世話してくれるってのは、どういうことだってのが解決すべき謎。ネタバレ的にいえば、日本の魅力はいつまでもつのかな、ということ。経済的にもそうだし、国籍的にも、だよね。

最後の「怪しいアルバイト」は、事件と表題はまったく関係ない。事件は、犯罪者の愛人の失踪事件。それも単純な失踪ではなくて、尾行してトイレに入ったところをつきとめたところまでは良かったのだが、いつの間にか、トイレの中から、その女性が消えてしまったというもの。その女性は「愛人」というぐらいだから、若い別嬪なのだが、トイレから出てきたのは中年か老年の女性ばかり、どこに消えてしまったのだ、という事件を、尾行をしていた警察か探偵社の男たちがふらりと寄る屋台でバイトをしていたのが、ほかならぬ「保住」。彼が、二人の話を聞いているうちに謎を解決し、屋台のおでん以外の「事件解決料」をせしめる話になっていますね。

【レビュアーから一言】

今回は、「しゃべくり」を期待しすぎると、ちょっと当てが外れるのですが、「安楽椅子探偵」もののミステリーとして十分楽しめる仕上がりになってます。

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