「定食」は、ユニバーサル・フードになった ー 今 柊二「定食ツアー 家族で亜細亜」

定食評論家・今柊二氏のおなじみの定食のレポートなのだが、今までの国内各地の「定食」の行脚から、東アジアの国々での「定食」ツアーとなったのが本書『今 柊二「定食ツアー 家族で亜細亜」(亜紀書房)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

ソウルぱくぱく定食ツアー
台湾ほくほく定食ツアー
シンガポールどきどき定食ツアー
バンコクわくわく定食ツアー
香港うまうま定食ツアー
沖縄つれづれ定食ツアー

となっていて、「定食」という日本固有っぽいものが主テーマ(サブ・テーマにインスタントラーメンとか稲荷寿司とか、学食なども点在しているのだ)であるので、やはり、「定食文化」が今までの歴史や交流の具合から染み出しやすい、東アジア中心で、しかも中国本土は除いたところが舞台。

収録は、2007年から2011年にかけての旅行なのだが、日本国内での「定食紀行」と勝手が違うのは、家族旅行を兼用しての定食ツアーであるので、基本的に奥さんと二人の娘さんの筆者の「定食志向」への目線は冷たく、地元らしい料理か、そうでなければロッテリア、マクドナルドといった店への嗜好が強いこと。
ま、たしかに、家族旅行で、明洞の「さぼてん」に入ろうなんて言われたら、それはムッとするよな、と今さんの家族に激しく同意をするともに、それに付き合わざるを得ないことに同情してしまいます。

ただ、海外における氏の”定食”の範疇は、韓国の「里門ソルロンタン」のソルロンタンを食して

黒い器の中には白濁した牛肉スープ、牛肉のスライス、そしてごはんとそうめんが入っている。汁、ごはん、おかず、漬物がそろっており、定食の要素を文句なしに満たしているわけだ。(P51)

であったり、

シンガポールにきたらまずはこれだろう。海南鶏飯。3.8シンガポールドルなので280円くらい。かなり安いな。チキンスープで炊いたごはんに蒸した鶏肉をスライスして乗っけたものだ。濃厚なタレをつけて食べるとうまい。中国海南島出身の人々が伝えて、シンガポール名物となったそうだ。スープも付いている。もちろん日本に由来する定食ではないけど「ごはん、おかず、汁」の三要素がsろった、じつに正しく定食的な一品だ。
うっすらと色のついたライスをスプーンで口に運ぶ。鶏のエキスがごはんに染み込んでいて、なんとも味わい深い。添えられた青梗菜の鮮やかな緑色がまた食欲をそそる。(P160)

といったように、「定食」基準はかなり低く、海外標準にしてあるのは確かである。
とはいっても、韓国の豚焼肉の店「五友家」での

まずはサンチェ(サニーレタスやエゴマなど)がたっぷり、そして白菜キムチ、イカのキムチ、栄養のあるタレ、普通のタレ、青菜、厚揚げの揚げたもの、何かコリコリした食べもの、糊、味噌汁、そして竹の容器に入ったごはんなどが次々と出てくる。・・・さらにおかみさんが三昧肉とともにやってきて、テーブルで焼いてくれ、適当な大きさに包丁で切ってくれる(P78)

のように、もともとミパチャンのような食文化のある韓国はまだしも、台湾 三越のフードコートで
 
”カツレツ御飯”と日本名で記された排骨(豚骨付き肉)の定食がすてきだったので、これにしよう。140元。
(中略)
しばし待っていると定食が登場。おお、ボリュームあふれる排骨にキュウリの漬物。そして3つの副菜と汁物がまぶしい。ごはんは魯肉飯という台湾名物。白飯の上に肉のそぼろが乗っている。日本と現地の食文化が見事に融合した定食といえますね(P122)

や、シンガポールのホーカーセンター「フードジャンクション」の

私が絶対食べたいと狙いをつけたのが<JAPANESE CUISINE>という日本料理の店であった。・・ひときわ目を引いたのがSABA FISH SET。6ドルだかた400円から500円ぐらいと値段も手頃だ。
(中略)
席について出来上がりを待ちながら遠目にこの店の注文風景を観察していると、ランチでやってくる日本人サラリーマンの多くが、揃いもそろってこのSABAを注文しているではないか。

カウンターでトレーに乗ったセットを受け取りテーブルへ。さてお待ちかねの定食は、カットレモンが添えられた半身のサバ、味噌汁、ごはん、そしてまさかの付け合せスイカという布陣である。
まずは味噌汁から。具はワカメで味は薄め。シンガポールの味噌汁はどこも味が薄いのかな、メインのサバに手をつけようとすると、あれ、箸先を少々跳ね返してくる弾力があるぞ。何も考えずに「サバ塩焼き」だと思っていたら、なんとサバの素揚げだった。(P163)

のように、もともとの食文化での定食性が薄いところで、日本料理店などの定食が出てくるとさすがに。家族も良い顔をしないだろう。個人的には、定食の匂いがするにしても

鳥の唐揚げを売っている店で見つけたピラフライス&フライドチキンは55バーツ。200円弱は安い。これを2人前で間に合うかな。注文するとおじさんが唐揚げを包丁でサクサクと切ってお皿に盛り、ピラフは型に入れてポーションし、付け合せの薄切りキュウリ、スープと一緒にトレーに乗せ渡してくれた。(P204)

続けて、ガラス越しに吊るされていた肉を乗っけたチャーシュー丼。スープと空芯菜の痛めものが別皿で付いていて、見た目の満足度は高い。まずはスープから。鶏肉、春雨、玉子の具でスーラー経過と思ったら意外とマイルドな味だ。空芯菜炒めはタレがかかっており繊維質の歯応えも充分で、いかにも野菜を食べているなという気になる。(P259)

といった現地風味があるほうが、やはり海外の定食っぽいと思うのは私だけかな。
ま、ここは、日本風の定食を求めて、家族の冷たい視線を浴びながら、東アジア探訪をする作者の努力に敬意を払いつつ、最後の章の「沖縄」で純粋とはいえないかもしれないが「日本風の定食」のお話を味わって「〆」としてくださいな。

【レビュアーから一言】

筆者のレポートを読んでいると、日本の定食文化がいつの間にか海外における「TEISYOKU」文化として発展していっている様子が伺いしれる。「SUSHI」に続いて「お弁当」が「OBENTO」としてパリっ子たちの間でも流行になったように、定食も国際的な食べ物になっていく日も近いのではなかろうか。だって、バンコクのホテルのコーヒーショップの日本食

まずは天ぷら弁当が登場。これがまた目をひくラインナップである。まず器の左手前にはエビ2尾とニンジン、かぼちゃ、ごぼう、ピーマン、さつまいもといった野菜天が盛りだくさんで、大根おろしとおろしショウガが脇に添えられている。左奥にはサーモンの刺身に・・・。(P199)

なんてのは、まさに国内のものと同じで、まさに「普遍化」しているではありませんか。

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