「脂」ののった澪の料理を堪能あれ ー 高田郁「みをつくし料理帖 想い雲」

幼い頃、水害で両親を失い、その後奉公に上がった上方の大店の料理屋「天満一兆庵」が火事により没落し、そこのご寮はん・お芳と江戸へ逃れてきた下がり眉毛の女性料理人「澪」。彼女が江戸の小さな料理屋「つる屋」で、その料理の腕で評判を上げていく、「成り上がり」ストーリー「みをつくし料理帖」の第三弾が『高田郁 「みをつくし料理帖 想い雲」(時代小説文庫)』。

【収録と注目ポイント】

収録は

「豊年橋ー「う」尽くし」
「想い雲ーふっくら鱧の葛叩き」
「花一輪ーふわり菊花雪」
「初雁ーこんがり焼き柿」

となっていて、まず第一話の「豊年橋」は、口は悪いが、実は澪の料理の大ファンである戯作者・清右衛門の版元 坂村堂がお抱えの料理人に澪の料理を教えて欲しいと頼んでくるのが発端。なんと、その料理人、澪の勤めていた天満一兆庵の若旦那と江戸でともに店をやっていた富蔵だった、若旦那失踪の謎は如何・・、といった展開なのだが、この富蔵、包丁の手入れが悪く、どうにも料理人らしくない。富蔵は若旦那は、吉原の女郎に入れあげて果ては、その女郎を殺めてしまったというのだが、真相は・・という筋立て。息子の不祥事に心労のたまっている「芳」とつくったのが『「う」尽くし』なのだがその内容は・・、というところですね。

第二話の「想い雲」に出てくる料理は「鱧」だ。あさひ太夫のもとに馴染み客から届けられた鱧。ところが江戸ではなじみのない魚ゆえ、調理する料理人が見つからない。そこで、澪がかり出され、という筋。それが縁となる、「あさひ太夫」いや幼なじみの野江との一瞬の再会がなんとも嬉しい。鱧の料理を請け負った翁屋で、澪を女性と侮った男性の料理人が鱧の毒にあてられるところを、澪が見事に料理するあたりはスカッとしますね。

第三話の「花一輪」は、澪の料理の評判を利用しようと女料理人を使った料理屋(しかも屋号も同じの)があちこちにできる。ところが「色仕掛け」で客からお金だけ巻き上げようと考えているだけの店で、料理を食わそうと思ってもいないせいか。案の定、食中毒を出す。ところが、そのことが澪の店のことと誤解され、ぱったりと客足が途絶える。澪は苦境を脱するため、3のつく日は酒を出すことを決断するのだが、澪は店の客足を戻せるか・・・、といった展開。

最後の「初雁」はつる家の下足番「ふき」と彼女の実の弟で登龍楼に奉公している健坊のお話。ふきの弟は彼女たちの父親が残した借金のために登龍楼に奉公煮出されているのだが、彼が、店を飛び出してしまい、行方しれずとなる。ふきは彼を探しまわり、

川の土手に立ち弟の名を呼ぶ少女の姿を見つけて、澪は駆け寄った。背後から小さな身体を抱き締める。どれご¥ほどそうやって探し回っていたのか、少女んp身体は芯から冷えて氷のようだった、澪は両手で少女の身体を撫で擦ったが一向に温まらなかった。

といった具合で、心配のあまり衰弱してしまう。澪たち「つる家」の面々は、彼女を助け、健坊探しを続ける、といった筋立て。とりあえず健坊は当時は田舎だった千駄ヶ谷で見つかるので、安心して読んでください。標題の「こんがり焼き柿」は、健坊の陰膳として澪が柿を炙って作るものなのだが、詳細は原書で確認してください。

【レビュアーから一言】

さて、この第3弾。澪がようやく料理人として落ち着いてきたせいか、周りの人々の話も増えてきた。こうしたことが話の厚みを増してくるのだし、またシリーズものを読む楽しみだろう。

「ふき」と「健坊」が姉弟仲良く暮らすようになるかどうかは、次巻以降を待たないといけないようですね。

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