澪は「鼈甲珠」をあさひ太夫身請けの必殺技に使う ー 高田郁「みをつくし料理帖 美雪晴れ」

上方出身の「下がり眉毛」の女性料理人「澪」が、江戸の小さな料理屋「つる屋」を舞台に、その料理の腕で評判を上げていく「成り上がり」ストーリー「みをつくし料理帖」の第九弾が『高田郁 「みをつくし料理帖 美雪晴れ」(時代小説文庫)』。

前巻まででは、料理番付から滑り落ちたり、と多難なことが続いていたのですが、ようやく澪とつる家に起死回生の「運」が巡ってきたのか、あるいは亡くなった又次の功徳なのか、今までの負け分を一挙に取り戻すチャンスが訪れます。

【収録と注目ポイント】

収録は

「神帰り月ー味わい焼蒲鉾」
「美雪晴れー立春大吉もち」
「華燭ー宝尽くし」
「ひと筋の道ー昔ながら」

となっていて、第一話の「神帰り月ー味わい焼蒲鉾」では、澪が「蒲鉾」の自作に挑戦します。動機は、つる家で出す「入麺」や「とろとろ茶碗蒸し」の入れる蒲鉾が、一枚二百文と高価なため、節約を考えてのこと。ここらあたりは、上方出身の女性らしいところですね。しかし、この自作、天満一兆庵でも外から仕入れていたように簡単にできるものではありません。澪も寒鰆、鮃といろいろな白身の魚を試すのですがうまくいきません。そして最後に出会ったのが

身の丈三尺三寸(約一メートル)、腹は真っ白。背中は苔色のくっきるとした斑模様

という「鱈」です。値段のほうは鮃よりも高価なのですが、

塩を加えて摺り、粘りが出て摺り辛くなるのに耐えて卵白を加え、調味料を入れて、さらに滑らかに仕上げる。・・・摺り鉢の中のすり身はこれまでに比して生臭くはない。擂り鉢を抱えて調理場に戻り、中身を板に塗り付けて、形を整えたら、あまり間を置かずにに蒸篭に入れて蒸し上げる。冷水に取って引き上げれば、ほどよい弾力のある白板の出来上がりだった。

とかなり出来のよさそうな仕上がりになりますね。この話は「仕込み」の風合いが強くて、天満一兆庵の元若旦那・佐平次が、芳のもとを訪ねてくるようになったり、芳が一柳の後添いになった後、つる屋の手伝いをしてくれることになる、「お臼」という女性が店にやってきたり、と次話以降の展開の下拵えの感が強い展開です。

第二話の「美雪晴れー立春大吉もち」では、いよいよ今年の「料理番付」が発表する時期となり、それを巡っての話の展開となります。昨年は澪の武家奉公といった話があって休みがちであったため、番付から滑り落ちることとなったのだが、今年の番付では、なんと「関脇」に返り咲き、という快挙である。評価された料理は前巻で又次の供養のために考案した「面影膳」。ここらにも彼の草葉の陰からの応援があるのでしょうか。

この話で、摂津屋がとうとう「あさひ太夫」の秘密を知ることになります。彼女の今までの苦難を知って、摂津屋は「過酷な運命を補って余りある道を・・拓いてやりたい」と決意するのですが、これが最終話に向かって大きな力となりますね。

第三話の「華燭ー宝尽くし」では、澪がつる屋から独立した後、料理場を預かる料理人として、一柳から「政吉」が派遣されてきます。もともと政吉は澪が武家奉公をするためつる家を辞めようかというときにかわって料理場を預かることとなっていた料理人です。そんな彼が、つる家に入ってやっていけるかどうか、女房の「お臼」が事前に来て下見をしていた、という段取りのようです。
この話の主軸は、「お芳」がはれて「一柳」の後添えになるところなのですが、加えて、一柳の主人・柳吾が佐兵衛を料理人として復活させたい、といってくれますが、果たして、佐兵衛の気持ちを翻意させることができるかどうか、が今後の楽しみですね。

最終話の「ひと筋の道ー昔ながら」は、最終話に向けて、あさほ太夫を身請けするための大きな武器となる「鼈甲珠」を使った大博打に澪が挑みます。

登龍楼との勝負で「鼈甲珠」を考案して一泡吹かせたのですが、商売人として上手の登龍楼は、それを真似した「天の美鈴」というのを売り出していて、大変な評判をとっています。
登龍楼にもう一回、一泡吹かせることを狙って、吉原で「鼈甲珠」を売り出す工夫をするんですが、路上での振り売りで、しかも登龍楼の200文の単価に対し、60文という安値で売り出したものですから、「偽物」よばわりをされた上に、行商の鑑札を持っていないため、同業者から締め出しをくらうことになります。
困った澪は、翁屋と摂津屋に相談をもちかけ、再建中の翁屋の店の軒先で「鼈甲珠」を売り出す許可をもらいます。ここで、澪は値段は登龍楼と同じ200文、しかも蛤の貝殻の中にいれてテイクアウト専門で売り出すのですが、江戸っ子の反応は・・・、という展開です。

【レビュアーから一言】

このシリーズでは、あちこちに雑談で使えそうな「料理ネタ」が仕込んであるのですが、今回紹介するのは、澪がふきにアドバイスする場面で出てくる

ことに料理人は、赤い色を大切に扱う。
赤、橙、朱、紅、等々。こうした温かみのある色は、少し入るだけで料理そのものの色彩を華やかにして、「食べてみたい」と思わせる不思議な力があるのだ。
「ただし、過ぎたるは及ばざるが如しで、多すぎては駄目なの。少し混じるくらいがちょうど良いのよ」

といったところでしょうか。料理におけるカラーリングの大事さというのは常識なのかもしれませんが、最後に澪が釘を刺す言葉が妙に効いてきますね。

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