「あさひ太夫」の身請けに澪の繰り出す秘策は? ー 高田郁「みをつくし料理帖 天の梯」

上方出身の「下がり眉毛」の女性料理人「澪」が、江戸の小さな料理屋「つる屋」を舞台に、その料理の腕で評判を上げていく「成り上がり」ストーリー「みをつくし料理帖」の最終巻が『高田郁 「みをつくし料理帖 天の梯」(時代小説文庫)』。

上方から江戸へ出て、料理修行に励んで腕を磨いた「澪」が、念願であった「あさひ太夫」の身請けをすることができるか、澪の知恵が試されるのが本巻です。

【収録と注目ポイント】

収録は

「結び草ー葛尽くし」
「張出大関ー親父泣かせ」
「明日香風ー心許り」
「天の梯ー恋し粟おこし」

となっていて、第一話の「結び草ー葛尽くし」では、澪が「つる家」を出る日が近づく中、彼女がどの道を選ぶのかが焦点です。つる家の面々は、彼女が「一柳」の料理場に入り、柳吾から彼の技をすべて伝授されることが既定路線と思っているのですが、澪が選んだのは、ぼやを出して空き家となっている店を借りて、鼈甲珠の調製と持ち帰りの菜を出す、という道です、どうも、この娘は、あえて厳しい道を選んで突き進んでいく傾向があるようですね。ただ、そういう彼女でなければ、失火で大店が改易となった伊勢屋の美緒を慰める

生姜の効いた湯葉あんのお汁、雲片には戻した木耳のもやし、人参に椎茸、それに生揚げではなく、海老を入れた。清右衛門には悪いが、里の白雪も載せる。胡麻をねっとりするまで摺って、葛を合わせて練り上げた胡麻豆腐には山葵を添えて。

といった「葛尽くし」の料理はつくれないでしょうね。

第二話の「張出大関ー親父泣かせ」は、今年もやってきた「料理番付」が話の中心。ただ、つる家では澪がつる家から独立してしまうことがわかっているので、料理の中心となるのは、一柳からつる家に移った政吉です。その彼が勝負をかけるのは、無骨な彼らしく「自然薯」の料理なのですが、自然薯を細工をせずにつかった料理です。それは

火傷しそうに熱い蓋を外せば、ほかほかと柔らかな湯気が立ち上り、そこに混じる山葵の香りに鼻をくすぐられる。存分に香りを嗅いで、茶碗に顔を寄せれば、葛あんを透かして何やら濁った色が目に映る。しかし、夜の店内、暗い行灯のもとでは、色味が今ひとつわからない。下足番の呼び込みからすれば自然薯だろうが、下処理を施した自然薯の白さとはほど遠く、何とも不気味な料理なのだ。

というもの。読む限り、売れそうにない料理なのだが、「この自然薯のやつは仙人だ。長く風呂に入っていねぇような見てくれだが、ひとくち味わえば不老長寿をもらったも同じ」という味わいで、あっという間に、中年男たちの舌を魅了して人気料理となります。そして、これが「つる家」が「張出大関」にのし上がる要因となりますね。

一方、澪のほうは江戸城に務める「徒組」の昼の弁当を一食十六文で請け負うという、「しょぼい」商売を頼まれます。ただ、この商売でも「仕入れに銭をかけずに済むものを使えば、お菜をひとつ、加えられる」と、当時「下魚」とされていた「マグロ」を使って、

磨り下ろした山葵を酒で緩め、鮪に下味をつける、塩煎餅を丁寧に擂り鉢で摺って細かくし、先の鮪に万遍なく塗ぶして、油で揚げる。
(略)
揚げてから刻が経ったとは思えぬほどの、軽い衣の味わい。それに衣事態の塩味と鮪の山葵とが効いて、何とも愉しい

といった工夫をこらすあたりが彼女らしいですね。

第三話の「明日香風ー心許り」では、一柳の柳吾が番屋にしょっぴかれてしまいます。一柳の座敷に落ちていた小さなかけらを奉行所に届け出たところ、それが公方様しか口にすることが許されない牛乳からつくる「酪」と判明。このため、「酪」を密造し横流しをしている容疑で取り調べを受けることになるます。実は数年前に、この酪の横流しで、当時の御膳奉行をまきこんだ事件が発生していて、そのため厳しい扱いになっていた、というわけですね。
そして、この以前の事件に、天満一兆庵の若旦那が関わっていたと判明します。そして、その黒幕がなんと登龍楼の采女宗馬という筋立てですね。少々ネタバレすると、今まで、澪の邪魔ばかりをしてきた彼に天誅が下されるのですが、悪運の強いやつというのはいるもんです。

最終話の「天の梯ー恋し粟おこし」は、澪が「あさひ太夫」を身請けすることができるか、という正念場に立たされます。とはいうものの、澪がおおきく稼げるのは、鼈甲珠くらいで、これも一日三十個、一つ十六文という商売なので、身請け料四千両を稼ぐにはまだまだ足りません。しかし、あさひ太夫が錦絵に描かれたことで、幻の太夫ともいっておられなくなり、身請けの時期が早まります。
さて、これを一発逆転する澪の「秘策」は・・?といった展開ですね。

【レビュアーから一言】

あさひ太夫を見受けする銭を稼いだ「澪」の秘策にも「おーっ」と言わされるのですが、その後、澪と野江(あさひ太夫)がどういう道を選んだか、というあたりも驚かせる展開になっています。ここから先はネタバレしませんので、原書で確認してくださいね。一言いうと、まさに「雲外蒼天」の仕上がりです。

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