「ヨコハマ」の街の洒落た謎の数々を楽しもう ー 大崎梢「横浜エトランゼ」(講談社)

都市にはそれぞれがまとっているイメージというものがあるのだが、この物語の舞台となる「横浜」というところは、「神戸」と並んで名前を聞いただけで「オシャレ」なイメージが立ち上がってくる、というなんとも羨ましい街である。

そんな「横浜」の地を舞台に、「ハマペコ」というタウン誌で、高校卒業までアルバイトをしている女子高生・広川千紗を主人公に、読者から寄せられる「ヨコハマの謎」を解き明かしていく物語が本書『大崎梢「横浜エトランゼ」(講談社)』である。

【収録と注目ポイント】

収録は

「元町ロンリネス」
「山手ラビリンス」
「根岸メモリーズ」
「関内キング」
「馬車道セレナーデ」

となっていて、主人公の千紗が勤めている、タウン誌「ハマペコ」こと「ヨコハマ・ペーパー・コミュニティ」を発行している「横浜タウン社」は、創業38年という歴史を誇る、大手新聞社系列の情報誌出版社である。ここの編集長が、持病のヘルニアが悪化して自宅療養になったため、編集長代理に、千紗の年上の幼馴染「小林善正」が就任したため、人手不足状態になった隙きをついて、千紗がアルバイトとして潜り込んだというところである。彼女には、高校卒業までのお小遣い稼ぎという側面と、編集長代理の善正のことがちょっと行為を抱いているという設定になってますね。

で、話のほうは第一話の「元町ロンリネス」は、「アキヤマ」という洋装店のオーナーマダムに関する話。編集長代理の善正の忘れ物の後始末で、彼女の昔話に付き合うことになったのだが、それは関内にあった百段もある階段の思い出話。彼女は、亡くなったご主人とよく登ったという話をするのだが、その階段は関東大震災のときに崩れている。彼女は昭和一桁の生まれので、その階段を登ったわけはないのだが・・・、という謎解き。けして、マダムはボケているわけではなく、ご主人の昔の恋物語に絡むお話です。

第二話の「山手ラビリンス」は、横浜の「洋館」にまつわる謎とき。編集部に届いた読者のハガキがきっかけで、横浜にある7つの洋館の不思議を解き明かす話。出てくる洋館は「山手111晩館」「山手234館」「ベリック邸」などなどで、横浜の人には既知のことなのかもしれないが、当方のような辺境の民はきいたことにないものばかりですね。まあ、この謎解きには「山手公園」と「山手の公園」という地元民しかわからないことがキーとなるので、それもいたしかたないのかもしれません。

第三話の「根岸メモリーズ」は千紗の同級生の菜々美のおばあさんの話の謎解き。おばあさんの父親の喜助さんは、横浜生まれのくせに、自分は外国生まれだと言っていたらしい。まあ、それは「ミシシッピ」という俗称がつけられたところであった、ということなのだが、そのほかに、彼は自分の妻に、今は入れないが、見晴らしのいいとびきりの場所につれていく、と言ってプロポーズしたらしいのだが、そこは一体どこなのか・・・、という謎解き。居留地らしい「競馬場跡地」がでてくるのが「横浜」っぽいですね。

第四話の「関内キング」は、「ハマペコ」の大支援者である飲食店グループの経営者・寿々川喜一郎の昔話の謎。彼には、若い頃、憧れていた女性がいて、彼女は「私は私のキングを探している」が口癖。皆がその「キング」になりたいものだと思っていたのだが、ある日「私のキングが、私をパリに連れて行ってくれる」と言って、横浜から姿を消してしまう。その言葉に隠された意味を、数十年経過して、すでに老年となった喜一郎が知るのだが・・といった展開です。

最終話の「馬車道セレナーデ」は、千紗の卒業も迫り、しかも編集長の復職もまじかでアルバイトの期限も迫っている。さらに、好意を寄せている善正に前には、彼が以前憧れていた、千紗の従姉妹の恵里香が現れ、といった感じで、彼女が新しい生活へ向かった一歩を踏み出す話です。

【レビュアーから一言】

今はもうなくなってしまったものも含め、横浜の歴史が「謎解き」を通じて感じられる「ご当地ミステリー」なのだが、横浜の「新しさ」と「古さ」が入り混じった魅力を感じさせる仕上がりになってます。中華街とかいった、有名どころは出てこないのですが、都会的な「洒落た」ミステリーとしてお楽しみくださいね。

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