若だんなは、「於りん」殺害の危機を防げるか ー 畠中恵「ねこのばば しゃばけ3」

祖母・ぎんが実は大妖「皮衣」で、その血筋のせいか妖怪の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第三作が本書『畠中恵「ねこのばば」(新潮文庫)』。

【収録と注目ポイント】

収録は

「茶巾たまご」
「花かんざし」
「ねこのばば」
「産土(うぶすな)」
「たまやたまや」

となっていて、まず第一話の「茶巾たまご」は、一太郎の兄・松之助と見合いをした海苔問屋・大むら屋の長女・お秋が急死するところから開幕。もともと、このお見合い、主人夫婦が死んで商売のほうが左前になった「大むら屋」が、一太郎の腹違いの兄・松之助を婿にもらえば、大店の長崎屋からの援助がもらえるだろうという下心から出たもの。この見合いは、お秋の急病で駄目になったのだが、店を立て直そうとした彼女の「海苔百珍」を出版して「海苔」ブームをおこそうという工夫が仇になる、という展開ですね。若だんなが謎解きの手掛かり探しに、鳴家を「大むら屋」に」忍び込ませるのですが、このあたりは便利な妖ではあります。

第二話の「花かんざし」では、普通なら人の目にはみえないはずの「鳴家」が見える「於りん」という女子が登場。彼女は、深川にある実家の材木問屋・中屋から日本橋にある長崎屋までやってきたのだが、その理由が家にいると「殺されてしまう」から、というのだから穏やかではない。まあ、子供の言うことだから、と取り合わずにいると、於りんではなく、彼女の乳母の「おさい」が変死するという事件が起きて・・・という展開。於りんが、中屋の実の子ではなくて、主人の妹の子で、子供が早死した主人夫婦に貰われた境遇、というのがカギになりますね。

第三話の表題作「ねこのばば」は、広徳寺という妖封じで有名なお寺で起きた変死事件の解決。このお寺の松の木に錦の巾着がぶら下がっていて、それが祟りではないかと噂があるのだが、実は、この寺に一太郎の知り合いの飼っていた猫又になりかけの猫が預けられているのだが、この噂がもとで退治されてしまうかもしれないという事態に。これを心配した若だんなの一太郎・佐助・仁吉が出向いた時に、僧侶が死んでいるのに出くわす、という筋立て。ところが、この僧侶の死を、寺のほうでは自殺として片付けようと画策をはじめ、といった展開です。
この広徳寺というのは「妖封じ」でいろんなところから多額の寄進があるところなのですが、まあ、こういうお金が集まるところでは不正な金の流れができる、っていうのは物語の定番ですね。

第四話の「産土(うぶすな)」は佐助の語り口で展開していく話。彼が奉公している店と付き合いのある大店の主人が倒れて次々と立ち行かなくなっていく、という事態が発生します。その倒産の余波で、この店にも損害が及び、佐助は妖の才覚で、世間に知られていない埋蔵金や沈没した船に積んであった金などを調達するのだが、店の主人は主人で、怪しげな信心にかぶれてしまう。その御蔭なのか、帳場の銭函に中に「金」が湧いてくるようになるのだが、実は、その見返りに・・・、という筋立てです。
この信心には、見世物小屋の「傀儡」が絡んでいて、湧いてくる金と引き換えに、「人」と「傀儡」との入れ替えがセットになっているのだが、この店の主人が入れ替えの対象として提供したのは、なんと「若旦那」で・・と展開していきます。

最終話の「たまやたまや」は、若だんな・一太郎の幼馴染・菓子屋の栄吉の妹・お春の縁談にまつわる話。お春にもちこまれた縁談の相手は、献残屋という贈答品の引取を専門に扱い店の若主人の庄蔵。ところが、この男には、借金があるだの、知り合いの森川という浪人の妹に惚れているといった噂があり、心配した一太郎が、その真偽を確かめに乗り出す。その時に、その浪人から庄蔵が預かったものをよこせ、と侍たちが二人を誘拐して・・・、という展開。
若だんなの淡い恋が消えていく物語ですね。

【レビュアーから一言】

このシリーズでは、病弱な若だんなの薬のほかに食べ物の話もでてくるのだが、山ほど砂糖をかけられたご飯や甘い菓子など、どうにもそそるものは出てこないのですが、本巻では

紙にたまごを割り入れ、茶巾絞りにして茹でるもの。紙を取った後、醤油を垂らして、もに海苔をかけるか、葛餡をかけて、青のりをふる

という「茶巾たまご」がでてくるのですが、砂糖まみれの料理を出すより、こういう料理のほうが若だんなの食も進むように思うのですがどうでしょうか。

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