富次郎の聞き役第二弾は「切支丹屋敷」の怪事 ー 宮部みゆき「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」

神田三島町にある袋物屋・三島屋の「黒白の間」を舞台に、三島屋の姪・おちかを聞き役に繰り広げられてきた「変わり百物語」の聞き手が、この店でぶらぶら暮らしをしている次男・富次郎に代わってからの二巻目が本書『宮部みゆき「黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続」(毎日新聞)』である。

過去に許嫁が幼馴染に殺されたという経験をしている「おちか」に比べて、商いの修行先で大けがをしたという災難にはあっているが、気さくで旨いもの好き、次男坊なので跡取りでない気楽さを持った「富次郎」が、様々な因縁や人の心の重さ・暗さを持った「物語」たちをきちんと鎮めることができるか、そろそろその力量が試され始まるのが今巻である。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 泣きぼくろ
第二話 姑の墓
第三話 同行二人
第四話 黒武御神火御殿

となっていて、第一話の「泣きぼくろ」は、富次郎の寺子屋仲間の豆腐屋・豆源の八太郎の幼い頃の話。彼の生家の豆腐屋では、家族17人の大所帯で豆腐屋を営んでいる。この話では、当時の三島屋はじめ近所の家ではそこの豆腐を買っていたようだから、かなりの名店であったのだろう。で、話の大筋はそこの家で次々おこる不倫話なのだが、夜這いをかける女性たちの顔に「泣きぼくろ」ができていて、不倫が発覚するとその泣きぼくろが剥がれてどこかに転がっていってしまう、という怪事である。語り手の八太郎は当時小さなガキであったので、不倫騒動の中心ではないのだが、泣きぼくろにとりついた「モノ」の目撃者となりますね。

第二話の「姑の墓」は、江戸から遠く離れた山里の養蚕を営む家の言い伝えに関する話。その家のある村では近くの山に見事な桜が毎年咲くので、村中で花見をするのが通例となっているのだが、どういうわけか語り手の女性の生家・かがり屋では、女性はその花見に参加することが許されていない。そのわけはその家の年寄りたちは明かそうとしないのだが、その家の息子に町方の豪商の娘・お恵が嫁いでくることになる。お恵は何回かの駆け落ち騒ぎで有名で、どうやら厄介払いのように「かがり屋」に押し付けられたものであるらしい。だが、彼女の素直な心根がわかり、かがり屋の人々が彼女を受け入れる中、女性の花見が許されないのが、ずっと以前、意地悪な姑が嫁をいびり殺した祟が再現するのを恐れてのことと判明する。そういうのは迷信だと、お恵は姑と花見の山に登るのだが・・・、という展開。その結末はかなり怖い因縁話になってます。

第三話の「同行二人」は流行病で妻子を失った飛脚・亀一が、箱根の宿で幽霊につきまとわれる怪事。彼は足の疾いことで有名で、常に仕事に打ち込んでいて、家に帰るのも極稀というワーカーホリック。ところが、彼の妻子が流行り病にかかっても、楽観視して家によりつかず飛脚の長旅にでて帰った時に、妻子が亡くなるという惨事に。それ以来、自分の命を軽視するように過酷な飛脚ばかりをするようになっていたのだが、箱根の宿で、のっぺらぼうの化け物に付きまとわれることになる。その化け物の正体は、そして彼はその化け物がつきまとう理由を突き止めた時・・・、というう展開。化け物によって、家族をなくした飛脚の精神が救われる話ですね。

最終話の「黒武御神火御殿」は、三島屋に質屋・二葉屋からその店の奉公人の女中からことづかったと、色褪せた「印半天」が届けられるところから開幕。その印半天には左右の襟に小さく「黒武」、背中には□に十の字を重ねた印が入っている。そして、その印半天の内側の当て布の裏地に、漆で「あ」「わ」「は」「し」「と」「め」「ち」と書いてあることが判明する。その文字の意味が「キリシタン」に関わるものとわかり、警戒しているところに、その秘密を知っている、という語り手がやってくる。その男の風貌は

顔色だけ見れば四十路前なのだが、髪はほとんど真っ白なのだ。右側は鬢が薄く、それは髪が抜けているせいで、頭皮に引っつれたような赤黒い傷痕が広がっていることも見てとれた。
傷痕は右耳の下のところで途切れ、首筋は何事もないが、長羽織の袖から覗く右手の手首から甲にかけては、また同じ赤黒い傷痕に包まれている。そして右手の人差し指と中指の先が欠けていた。切り落とされたのではなく、まるで溶けたようになっている

というように酷い災難に出会ったことを示している。その彼が語った怪事は、とある屋敷に引き込まれた話なのだが・・・といった展開。この屋敷は、すでに亡くなっているキリシタン大名の妄念の現れなのですが、この屋敷に閉じ込められた語り手の男たちが何を経験することになるのかは原書のほうで。

【レビュアーから一言】

この黒白の間で語られる話を「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」にして、その話のもつ「魔」を祓うために、富次郎は掛け軸の貼った白紙の半紙に、話を象徴する画を描くのですが、語られる話の「怪事」の度合いが強ければつよいほど、その画には苦労するようです。たとえば、第一話の「泣きぼくろ」は「端っこの欠けた豆腐」、第二話の「姑の墓」は「女のてのひら、左右の一対」、第三話の「同行二人」は「宿場の茶屋と薬屋。そして薬屋の前の前垂れをつけた男と赤い襷の飛脚」というものなのですが、さて最終話で書かれたものは何だったのでしょうか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です