「しゃばけ」のパラレルワールドでは屏風のぞきに災難が ー 畠中恵「ゆんでめて しゃばけ9」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第9弾が本書『畠中恵「ゆんでめて」(新潮文庫)』。

あの時にその選択をしなければ、今の人生とは全く違う人生を歩んでいたのかもしれないな、と思う時は誰しもあるのだが、そんなことが長崎屋の若だんなに身におきたら、が描かれる。

【収録と注目ポイント】

収録は

「ゆんでめて」
「こいやこい」
「花の下にて合戦したる」
「雨の日の客」
「始まりの日」

となっていて、第一話の「ゆんでめて」では、若だんな・一太郎が、兄・松之助の子供が産まれたお祝いを届けた帰り途、見知らぬ小さなお社で、神様らしきものを見かけて後を追いかけるところから開幕。もしもその姿を見かけなかったら、「ゆんで」、ひだrの方向に進んだはずが、それとは逆の「めで」、右の方向で進んでしまったことで人生が行くつもりがなかった方向へ進んでいく。
物語のほうは、その松之助の子供が産まれてから4年後の話。4年前、出産祝いで外出している間に近くで起きた火事の類焼を防ぐために長崎屋の離れが壊され、落ちた屋根の下になって、若だんなの身代わりをしてくれていた、屏風のぞきの依代の屏風が酷く傷んでしまう。このため、屏風を修理を出したのだが、修理をする職人が急死して屏風の行方が分からなくなってしまい、それ以後、屏風のぞきも行方不明という状態が続いている。若だんなはそれ以来、屏風のぞきの依代の屏風を探しているのだが、千里眼をもつという噂の鹿島神社の事触れの噂をきき、彼に屏風探しを依頼する・・・、という筋立て。その事触れは、何かに取り憑かれた娘を知っているというのだが、ひょっとすると、それが屏風のぞき?、という展開。

第二話の「こいやこい」は、違う途を進んでから三年目の話。「しゃばけシリーズ」の第7弾「いっちばん」に収録されている「いっぷく」の品比べのかいで知り合いになった小乃屋の七之助の嫁取り話。そのお相手となるのは、品比べでも出てきた上方の大店・西海屋の長女の「千里」というお嬢さんで、七之助の幼馴染。美人ながら気の強い娘さんであるらしい。そんな彼女が幼馴染とはいえ何年も会っていない男との結婚を承知するには、条件があるという。それは、何人かの娘と一緒に江戸へ来るので、自分を見分けること。そして、江戸へ来たのは、いずれも劣らぬ美人の娘が五人もやってくる。しかし、七之助は、幼い頃に会ったきりなので、千里を、見分ける自信がなく、一太郎を頼ってくるのだが・・、という展開。この五人の娘が江戸へ来る理由は、七之助と千里の縁談以外に本当の理由が隠されています。

第三話の「花の下にて合戦したる」は、長崎屋の離れが火事に巻き込まれ、屏風のぞきが行方不明になってから二年後の話。長崎屋の若だんなが一度も花見をしたことがないのは外聞がわるいと、若だんなや兄やだけでなく、妖や菓子職人に栄吉も含め、長崎屋関係者が集まって江戸の花見の名所の一つ「飛鳥山」で盛大な花見の会を催す話。ところが、その花見の席に、見かけたことのない妖禿が紛れ込んできて、一行は別世界に誘導されて・・・という展開。

第四話の「雨の日の客」は火事から一年後の話。皆さんおわかりのように、火事が起きてから4年目から段々と火事の頃に時がさかのぼっていってます。
話のほうは、江戸を襲った長雨の中、近くの稲荷神社に百度参りをしていて、雨で濡れ鼠になった鈴彦姫が、三人の男にさらわれそうになったところを「おね」という大柄で屈強な娘さんに救われるところからスタート。おねは、名前以外のことは記憶を失くしていて、しばらく長崎屋に逗留することとなります。ところが、降りやまないそれぞれの縁の寺へ集団で避難しようということになります。
そんな時、続く長雨による大水は通町にある長崎屋のあたりまで、浸水してきて、このあたりの商店は集団で避難することになる。しかし、長崎屋に取り残されてる妖たちを心配した、若だんなは長崎屋に戻るのだが、そこで避難後に盗みにはいった泥棒や、「おね」から玉を奪おうとする鈴彦姫を襲った三人組と遭遇することとなる。そこでわかった「おね」の正体と、長雨がやまない理由は・・・、という展開。

最終話の「始まりの日」は、若だんなが「左」の方向へ行ってしまったために、歪んでいった出来事が、もとに戻っていく話。もともと、右へ行ってしまったのは、若だんなが小さなお社で、人ならぬ姿を見かけたためなのだが、生目神が、その原因となった市杵嶋比売命の姿を隠して、本来の左へと進ませることに成功します。そこで出会ったのは、「人が望む”時”を売り買いする」時売り屋の八津屋勝兵衛という男の出会うのですが、そのおかげで長崎屋の離れに延焼してくるはずの火事の行方も影響されて、という展開です。

最初に進む方向が違ったせいで生み出された物語は、時空の中に吸収されて「なかった」ことになって、屏風のぞきの災難も「なし」ということになるのですが、次巻以降でもあちこちにその名残を残しているので探してみてもいいかもしれませんね。

【レビュアーから一言】

第二話の「花の下にて合戦したる」で若だんなたちが花見にで出かける「飛鳥山」と並んで江戸の桜の名所といわれていたのが、「御殿山」と「隅田川堤」なのですが、この「墨田川堤」は、江戸幕府が江戸の治水のために、隅田川に堤を築き、その先に遊郭の「吉原」をつくって、江戸の男たちに通わせることによって築き固めた、ということが、竹村公太郎さんの「日本史の謎は「地形」で解ける」にでてきます。長崎屋の佐助、仁吉の兄やたちが花見先に、隅田川堤でなく、飛鳥山を選んだのはそんな理由もあるのでしょうか。

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