長崎屋のっとりも回避、若だんなの許嫁も決まりメデタシメデタシ ー 畠中恵「すえずえ しゃばけ13」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第13弾が本書『畠中恵「すえずえ」(新潮文庫)』。

今巻では、栄吉や若だんなの縁談話が持ち上がったり、ほとんど江戸から出ない若だんなが上方まで行ったりと、いろんな騒動がおきます。そして、今まで一太郎の離れに居候して妖たちにも新しい落ち着き先も出来上がり、新しい展開の幕開けとなりそうな構成となってます。

【収録と注目ポイント】

収録は

「栄吉の来年」
「寛朝の明日」
「おたえの、とこしえ」
「仁吉と佐助の千年」
「妖達の来月」

となっていて、第一話の「栄吉の来年」は若だんな・一太郎の幼馴染の菓子屋の栄吉のお見合い話。菓子修行を続けている栄吉の「餡づくり」の腕は一向に上達しないままで、縁談がまとまってても独立して生家を継いだり、新しい店を構えるわけにはいかないのだが、栄吉は修行先の安野屋の知り合いの寺社出入りの中里屋という菓子屋の上の娘との見合いを承知する。この時代の見合いといえば、よほどの事情がない限りまとまるものだのだが、見合いが済んでも栄吉は煮えきらずに返答をしない。そのうち、相手の「おせつ」には別の想い人があることがわかるのだが、その男は多額の借金を抱えているようで・・、という筋立て。この男の借金の返済の金を栄吉が用意したり、「おせつ」の妹の「お千夜」が栄吉と言い合いをして平手打ちをくわせたり、と結構もつれる縁談話となっていきます。まあ、最後のほうは、栄吉のお相手も決まっていく展開なので、作者の手にのって読み進めてくださいな。

第二話の「寛朝の明日」では、広徳寺の妖封じで有名な「寛朝」和尚に、黒羽坊という天狗が、妖封じの依頼を持ち込んできます。彼によると、知り合いの修験者のよく知る小田原の小さな寺の僧がなにかに食われてしまったというのである。小田原あたりには妖封じのできる僧はおらず、寛朝にこの怪異を鎮めてくれ、というのだが・・、という筋立て。頼まれると嫌とはいえない寛朝は、旅の従者として、獏の化けた落語家・本島亭場久と猫又のおしろと一緒に小田原へ出向くのだが、近くまできても、その怪異の話は評判になっていない。はたして、本当に怪異はあるのか・・といった展開です。若だんなは虚弱のため旅についていけないのですが、場久の「夢」と夢の中でつながって推理を働かせます。

第三話の「おたえの、とこしえ」では、長崎屋にお店(たな)乗っ取りの危機が迫ります。主の藤兵衛が、長崎屋の持ち船常磐丸で上方にいったきり帰ってこない間に、上方からきた赤酢屋という商人が長崎屋を明け渡せと証文をもってやってきます。彼が言うには、籐兵衛にさる大名の江戸留守居役に届ける「味噌漬けの牛肉」の運送を依頼したのだが、その荷が江戸へ届かない。期限までに届かない時は、賠償として長崎屋の店を譲る、という証文をかわした、と言うのですが・・、という筋立て。
この赤酢屋の言っていることの真相の究明と、籐兵衛の行方を探すため、一太郎が貧乏神の金次とともに大阪へ行くことになるのですが、「おたえ」が一太郎の無事を祈願した福の神が一太郎を救けようと言い出したため、話が複雑になります。貧乏神と福の神、どちらのご利益が強いか、大阪の堂島の米相場で勝負をすることになるのですが・・、という展開です。神様同士の勝負で割を食うのは、米相場で商売をしている相場師たちなのですが、彼らから赤酢屋の情報が入って、彼の悪巧みを砕くことができ、さらには、若だんなが思わぬ役得を得ることになりますね。

第四話の「仁吉と佐助の千年」では、若だんなが上方の米相場で大儲けしたことから、いままで病がちの頼りない男と見くびっていた周囲の目が一変し、若だんなに縁談がたくさん舞い込んでくることになります。この縁談がまとまれば、今までのように妖たちとわちゃわちゃ暮らしていることもできないだろうと、祖母の「おぎん」が気を回し、彼女がお守り役としてつけている仁吉と佐助を一太郎のもとから
去らせるための段取りを始め・・・、という筋立てです。二人共、一太郎のもとを離れないといけないのか、と半分覚悟をするのですが、一太郎の許嫁がひょんなことから決まることで、無事解決、という展開です。

第五話の「妖達の来月」では、若だんなが上方で儲けてきた(本当は、米相場で儲けた福の神たちから巻き上げた)資金をもとに、長崎屋の裏手に、大きな長屋をこしらえるのですが、ここに妖たちのうち、金次やおしろ、場久たちが住むこととなっておきる騒動です。妖たちは、若だんなから引っ越しの祝として、それぞれの湯呑などの家財道具や火鉢を贈られるのですが、その品物がいつの間にか盗み出され、市中の古道具屋に売られていたり、ゴミ置き場で撒いてあったり、といったことに。さて、この盗人の正体は・・・という展開です。長崎屋で世話になっている妖たちに競べ、町中の妖たちの暮らしは厳しいところが、この騒動の原因ですね。

【レビュアーから一言】

第四話で、一太郎の「兄や」仁吉と佐助、さらには妖たちが引き続き長崎屋で一太郎ととともに生活をすることとなったのは、一太郎の「許嫁」が決まったことによるのですが、決め手は、その「許嫁」が、妖たちを見ることができた、というところにあるようです。彼女は、このシリーズでもおなじみの娘さん奈のですが、シリーズの初登場のときから時間も経過し、かなり大きくなっているようですね。一体、誰なのか?は、原書のほうで確認してくださいね。

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