生まれかわってなりたいものは? ー 畠中恵「なりたい しゃばけ14」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第14弾が本書『畠中恵「なりたい」(新潮文庫)』。

今巻は、最初の「序」のところで、若だんな・一太郎の病気の回復のため、長崎屋の主・籐兵衛があちこちの寺社へ寄進をしようと思うのだが、若だんな
が供え物をもって寺社へ参拝するとますます病気が重くなるので、神様を長崎屋へ招聘しようと思いつく所からスタート。
ただ、呼ばれる神様が、大黒天、生目神、市杵嶋比売命、橋姫といった「しゃばけ」でおなじみのメンバーであるので、単に神様をお祀りすることで終わるはずもなく、若だんなが来世何になりたいか、神様たちに告げて、その答えが気に入ったら、その世界を引き寄せてやろうと約束する。ただ、もし気に入らなかったら・・・、ということで、若だんなが、何になりたいか、あれこれと思案する、というのが巻を通じの展開である。

【構成と注目ポイント】

構成は

「序」
「妖になりたい」
「人になりたい」
「猫になりたい」
「親になりたい」
「りっぱになりたい」
「終」

となっていて、第一話の「妖になりたい」は、若だんなが寝込んでお金を費やしてばかりもいられないと発奮して、彼らしい「お金の稼ぎ方」を考案します。その方法というのが、薬種問屋らしく、よく効き「膏薬」をつくることだったのですが、その材料となる蜜蝋を手に入れるため、ミツバチを養蜂している村・西八谷村の甚兵衛に彼の「空を飛ぶ」という望みを叶えることを約束する。空を飛ぶためには、人のままでは無理で、天狗のような「妖」にならないと甚兵衛は思い込み、若だんなに「妖」にしてくれと頼み込むことになる。さて、この望みを若だんなはどう叶えてやるのか、というところと、この若だんなの膏薬が空を飛べる秘薬と勘違いした「赤山坊」がこの薬をよこせとねじ込んできて、という展開です。

第二話の「人になりたい」は、江戸時代に流行してた「連」「会」のなかでも、メンバーが菓子をつくって出来栄えを本表しあう「江戸甘々会」でおきた殺人(?)事件の顛末。この会には、栄吉が修行している「安野屋」の主人も参加しているのだが、彼が会場となった料理屋の離れで、会のメンバーである「勇蔵」という菓子売りが死んでいるのを発見する。あわてて料理屋の従業員や会のほかのメンバーに知らせて現場に戻ったところ、死体は跡形もなく消えていて、という事件である。この殺人の犯人は、と普通の物語ではなるのだが、このシリーズらしく、この勇蔵が「道祖神」の化身であるあたりから、話の方向がちょっと違い方向へ進んでいきますね。

第三話の「猫になりたい」は、手ぬぐいを商う青竹屋の元主人で、追い剥ぎに殺された「春一」という人物が主人公。彼は死んでからも店の行く末が心配で成仏していないのだが、その店が最近左前になり初めている。その店を立て直すために、以前知り合った東海道の猫又たちの「猫じゃ猫じゃ」の踊りが使えないかと思いたつ。ところがその猫又たちは、今その「長」を誰にするかで揉めていて、最初は若だんなが頼まれるのだが、一太郎は裁定役に「春一」を推薦し、もしこの揉め事をうまく調停したら、猫又との取引をしてくれることを条件にします。猫又踊りの手ぬぐいという安定した取引を、青竹屋に斡旋しようという考えですね。ところが、この裁定のための勝負に使う「大福帳」が紛失するという騒ぎが起きて・・という展開です。

第四話の「親になりたい」では、長崎屋の女中をしている「およう」のお見合い相手である煮売り屋の「柿の木屋」の息子・三太が見合いの席で大暴れする所からスタート。この三太という子供は柿の木屋の実子ではなく、火事で焼け出され迷子となっているのを引き取ったものであるらしい。その柿の木屋も幼い頃、親とはぐれて育った経歴があり放り出すわけにはいかなかった、ということですね。ただ、この三太という子供は、かなりの乱暴者で、長崎屋では「およう」が柿の木屋と一緒になっても子育てで苦労するだけだ、と心配し、縁談を断ろうとするのだが、「およう」は柿の木屋と世帯を持つことを選ぶ。ところが、世帯をもった後、三太の実の親だと名乗る男がやってきて・・・、という展開。この男が本当の親かどうか、というところと「三太」の正体が注目ポイントですね。

第五話の「りっぱになりたい」は、一太郎と同じく病弱であった茶問屋・古川屋の若だんな・万之助が病死し、弔いをだされるまでの話。彼は親を心配させたまま死んだことが心残りで、成仏するまでに、親の夢枕で、来世に生まれ変わるものを告げて安心させようという試みるのですが、それに一太郎も協力をする、という筋立てです。ところが、彼が何に生まれ変わるか決められないうちに、万之助の妹が拐かされるという事件が起きます。身代金三十両用意しろ、という脅迫状も届くのですが、鳴家たちは、その妹は自分で店を出ていったと主張します。いったい、誘拐事件は本当に会ったのか・・といった展開です。

【レビュアーから一言】

最後のところで、「序」のところで神様たちから出された「來世、何に生まれ変わりたいか」という問いに対して、若だんなが出した答えはなんと、「また商人になりたい」というものです。まあ、いつも病気で寝込むことが多いて、店にも出ることのほとんどない一太郎が「商人」といえるかどうかは疑問なところですが、その理由は、というところはちょっと泣かせどころですね。詳しいところは原書のほうで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました