越南軍の攻撃からチャンパを守る鄭和の秘策は? ー 星野之宣「海帝 2」

15世紀の前半、明の三代皇帝・永楽帝が派遣した大船団の指揮を取り、アジアからインド、アラビア、アフリカまで航海した宦官あがりの艦隊指揮官・鄭和の大遠征を描く「海帝」シリーズの題2弾が本書『星野之宣「海帝 2」(ビッグコミック)』

前巻で、永楽帝の命令で、朝貢貿易拡大のため東南アジア遠征に出発した鄭和であったのだが、鄭和が大艦隊編成を永楽帝に進言した本当の理由が、永楽帝が帝位を簒奪した、前代皇帝で甥の建文帝とその娘を亡命させるために出会ったことが明らかになっての船出から占城(チャンパ、今の南ベトナム)からマラッカ海峡での海の怪獣との戦闘までが描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第9話 船出
第10話 占城
第11話 屍頭蛮
第12話 簒奪者
第13話 満刺加(マラッカ)海峡
第14話 餌食
第15話 覚悟

となっていて、蘇州の港から、倭寇の黒市党、中国北方でモンゴル軍と戦った燕軍の生き残りを船団に加えた鄭和艦隊であったのだが、永楽帝の密命を受けて乗り込んできた宦官の秘密警察・東廠との戦闘から幕開けです。彼れは、鄭和が建文帝を、この船団に隠して亡命させようとする動きを探っている様子で、この場面は黒市党の女性戦士・弖名たちによって撃退すするのですが、東廠の宦官は、この船団には「西廠」が乗り込んで監視している、という捨て台詞を吐いて逃走します。この逃走者は負傷した状態で港へ泳ぎつこうとしたため、大鮫に襲われ、建文帝の亡命情報は永楽帝まで届かずにすむのですが、これ以降の航海中も「永楽帝」の監視が続くことが明確になります。

出港後の航海では、まず「占城(チャンパ)」を目指すのですが、チャンパ王国の首都の港についても住民たちは出迎えようとはしません。というのも、チャンパ王国は隣国・越南(北ベトナム)からの侵攻の危機にさらされていて、ベトナム軍がいつ攻めてきてもおかしまうという状況に直面しています。

鄭和は船団に同行していたチャンパ王国の王子を帰国させ、しばらくここに滞在するのですが、この時期を狙って、首が体から抜け出して人を襲う「屍頭蛮」という妖怪の仮装をした、ベトナム軍の象部隊が、チャンパ王国の首都を狙って進軍してきます。

鄭和たち中国艦隊が滞在している間に、チャンパ王国の王族を殺してしまい、なし崩し的に併合を認めさせてしまおうという乱暴な作戦ですね。もちろん、この要請を断れば、チャンパの王宮に滞在している鄭和たちの命はないわけなのですが、この危機を、鄭和は「越南国王・ホー・クイ・リーも永楽帝も同じ「簒奪者」なので気が合うはずだ」と説得し、明に越南によるチャンパ併合を認めさせる「秘策」を授けて、この危機を逃れることができます。

ところが、この「秘策」というの」が実は曲者で・・、というところで、鄭和が以外に陰謀家であることを明らかにしています。

チャンパ王国での危機を脱した後、鄭和たちは現在のマラッカ海峡を通ってインド洋へと進む航路をとります。マレー半島とボルネオ島などに囲まれた地勢で、当時、重要な交易路であるとともに、海賊の出没する海域でもあったように描かれています。ただ、今巻での敵は、海賊たちではなく、この海峡で餌を求めて出没する「大イカ」です。西欧では「クラーケン」と言う名で怪物扱いされていた「ダイオウイカ」の群れですね、

これに対して、鄭和艦隊の「先遣隊」の役割を果たしている倭寇の黒市党が立ち向かうのですが、その結末は原書のほうで確認を。

ここでのダイオウイカとの死闘では、鄭和艦隊に従してきている「大鮫魚」のほかにも、マッコウクジラの群れも出現して、大海獣同士の戦いも圧巻であります。

【レビュアーから一言】

越南軍がチャンパ王国へ攻め込んだ時の主力として描かれているのが、戦象の部隊です。

象をつかった軍隊は、ヨーロッパでは、ローマ共和国軍を苦しめた、カルタゴのハンニバルの象部隊が有名ですが、アジアでも、ベトナムを中心として「戦象」の部隊が編成されていたようですね。横山光輝師の大著「三国志」で諸葛孔明が南蛮王・孟獲と戦った際にミャンマーあたりに領土・八納洞をもつ木鹿大王が、白象にまたがり猛獣を引き連れて攻撃してくる場面がでてきます。

現在でも、ベトナム中南部のバンメトート観光では「象乗り体験」が有名なようですね。

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