ラグビージャパンの「リーダー論」を学ぶ ー 荒木香織「リーダーシップを鍛える」

2019年に日本中を沸かしたラグビー日本の礎を築いた、エディージャパンのメンタルコーチを務めた筆者が、その時の経験をもとに「リーダーシップ」について著したのが本書『荒木香織「リーダーシップを鍛える ー ラグビー日本代表「躍進」の原動力(講談社)』である。

先著の「ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」 」では、勝ち方を知らないチームが「勝つスピリット」を手に入れるための「メンタル」について書かれていたのだが、そのメンタルをより輝かさせるために必要でありながら、日本の組織に最も掛けていると言われる「正しいリーダシップ」の育て方である。

【構成と注目ポイント】

構成と

プロローグ
第1章 可能性を信じる
 ーマインドセットから始まるリーダーシップ
第2章 「成長するチーム」のリーダーシップ
第3章 変革型リーダーシップがチームを進化させる
第4章 成功をもたらすハードワークとレジリエンス
第5章 フォロワーの可能性を引き出す
エピローグ

となっていて、前著での最初の励ましの言葉は「メンタルは鍛えることができる。その意味でメンタルはスキル」であったのだが、本書では「リーダーシップはスキルである、鍛えることができる」という言葉である。このあたりは、これから「リーダー」としての振る舞いが必要となる人にとって嬉しい言葉で、とかく「才能」の問題として語られることの多い「リーダーシップ」を「学べる」ものとして低実施てくれるのが有り難い。

まず最初におさえておくべきなのは

成長の土台となる三つのマインドセット
 1 新しい経験を拒まない
 2 習得への情熱を持つ
 3 限界を決めない

というところで、

成長の見られない組織やチームでは、「誰もやったことがない」とか「前例がない」といった言い訳が横行し、新たな導入に際しては「誰が責任を取るのか」「もし結果が伴わなかったらどうするのか」などと、リスクだけに目を向けてしまいがち

といったところには思い当たる人も多いはず。特に「前例」や「責任」は、歴史が長いが故に沈滞している組織でよく聞く言葉で、この言葉が嫌で転職した人もいるのではなかろうか。当方が思うに、この言葉を禁止して、ファクトに向き合うだけで問題が解決に向かって動いていくこともあるように思えますね。
そして、他の類書と違うな、と思うのが

実は、教えを受ける側にもスキルが必要なのです。それは教えられたことを自分のものにする「教えを受けるスキル」です。スポーツ心理学では「コーチアビリティ」(教えを生かす能力) と呼ばれ、選手にとって重要なメンタルスキルに含まれます。

というところで、コーチングの話題になると「教える方」の技術ばかりが議論されることが多く、「教えられる側」のメンタルを変える必要性について論じるものは少ないように思うのだが、確かに受け手のスキルがなければ、どんな良い球を投げてもパスボールになることはよくあることですね。

そして、こうしたことを踏まえながら論じられているのが「変革型リーダシップ」の概念で、それは

★何か問題が発生したときだけに出ていって、解決する
★フォロワーの意志や感情には興味がなく、一方的に業務指示を出してやらせている  
★自分の感情や考えを無理やり押し付けている  
★フォロワーはリーダーに合わせてついてくるものという考えがある  
★自分の見ている方向はフォロワーではなく、上司や会社

といった従来型リーダーシップの対極にあるもので「リーダーがメンバーに情動的に訴えかけてモチベーション鼓舞することで、組織に変革をもたらす脱従来型のリーダーシップ」「リーダーに求められるのは、お式やフォロワーのニーズに応えるべくリーダーシップを高め、フォロワーに夢や希望に働きかけること」というリーダーシップ。「★」印のリーダーに心当たりのある管理職はちょっと反省したほうがよさそうです。
そして「フォロワーのロールモデルとなるような行動をとること」「フォロワーが満足感や達成感を味わえ、ワクワクできる環境を提供していく」「フォロワーが創造性を発揮できるよう、変化(チェンジ)をリードしていく役割を担うこと」が、大事であるようで、「率先垂範」「職場の雰囲気をよくする」「若い者の言うことを頭ぎないしに否定しない」といった、昔の尊敬されるリーダーがもっていた「美質」とも共通するところがあるような気がします。
さらに「変革型リーダー」の心がけるべきことは

☆仕事を楽しむ(自分の中のポジティブな感情に目を向け、楽しみながら仕事に全力を注ぐ)
☆仕事以外に挑戦してみたいことを持つ(趣味を持つ。オフの時は必ず旅行に行く)
☆自分への投資を惜しまない(身銭を切る)
☆今の仕事に感謝する
☆プレッシャーを力に変える

といったことなのだが、詳しいことは本書のほうで確認を。

このほか、最近流行りの「レジリエンス」の鍛え方など、ラグビー・ジャパンの実践例に根差したアドバイスが盛り込まれているので、リーダーの立場になったはいいが、迷いがあるビジネスパーソンにおススメしておきます。

【レビュアーからひと言】

「オレについてこい」式の旧来のリーダーシップでは、今の複雑化する組織をうまくリードできないことは、中竹竜二さんの「リーダーシップからフォロワーシップへ」でも言われていたことなのですが、両方とも「ラグビー」に関係した人から主張されているというのも面白いですね。ただ、現在社会にフィットしている組織が高度成長期のエース主導で好守がはっきりしている「野球型」から、メンバーの攻守が戦況で入れ替わる「サッカー型」「ラグビー型」に変化してきている感がしていて、本書の主張する新しい「リーダーシップ」について、意欲的なビジネスパーソンはあれこれ研究しておいたほうがよさそうですね。

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