加賀藩潰しの「隠れた」攻勢はまだ続く ー 上田秀人「愚劣 百万石の留守居役14」

徳川第二代将軍・徳川秀忠の娘で、加賀・前田家の二代当主・前田利常の奥方・珠姫の「御陵守り」という閑職から一躍、江戸詰の留守居役に抜擢され、さらには加賀藩で「堂々たる隠密」と異名をとる本多正信を祖先とする筆頭宿老・本多政長の娘:琴姫の婿となった瀬野数馬の活躍を描く「百万石の留守居役」シリーズの第14弾が『上田秀人「愚劣 百万石の留守居役14」(講談社文庫)』。

前巻まででは、加賀藩の江戸屋敷を襲った無頼の者による焼き討ちの被害を、幕府に密告され、前田綱紀を隙あれば除こうと思っている徳川綱吉や、本多家に先祖からの恨みを抱く老中・大久保忠朝によって仕掛けられた加賀・前田家存続の危機をかろうじて脱した後、大久保老中や越前松平家によって仕掛けられる新たな罠や、前田家の家中で企てられる本多政長排斥の陰謀について描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 勝者と敗者
第二章 影と陰
第三章 血筋の辛さ
第四章 暗夜行
第五章 義父、ふたり

となっていて、江戸屋敷に無頼漢に侵入され家中の侍に危害を加えられた不面目の疑惑で取り潰されそうになった危機を、国家老筆頭・本多政長の弁明によって切り抜けた後のところからスタート。本多家の先祖からの宿敵・大久保家の当主・大久保忠朝は、本多追い落としの策を継続をしていくのだが、彼が使うのは、今回の不首尾の原因となった旗本・横山長次なので、ここは手駒不足を感じますね。
このへんは、本多家の江戸屋敷を見張る伊賀者にもいえて、屋敷内に忍び込もうとする忍があっけなく加賀の「軒猿」たちにやられてしまうあたりには、幕府の方の人材不足を感じてしまいます。

しかし、加賀藩への干渉は、大久保家の策謀もあって、周囲の大名家にも拡大していきます。今まで関わりのあったところばかりだけではなく、那須烏山藩など見ず知らずの藩の留守居役から加賀藩の留守居役への接待攻勢がかかるなど、加賀藩の情報をより多く掴んで幕府へ報告し、覚え目出度くしてもらおうという下心に溢れた動きですね。

この中でも、加賀の隣の越前松平家の動きは、藩主・松平綱昌が数馬の妻・琴姫にちょっかいを出したためにとられた詫び状の奪還という大目的があるので、かなりしつこく攻勢をかけてきます。ただ、国家老の無遠慮な動きといい、留守居役の数馬を若造と侮った動きといい、脇が甘い動きばかりですね。このへんが後に藩主・綱昌が狂気を理由として蟄居、さらには知行半減の処分を止められなかった原因が隠れているような気がします。

このほか次巻以降への持ち越し案件として、政長の息子である本多主殿を父と反目させようとする動きが活発化するのですが、その黒幕となる人物がまだはっきりしてきません。おそらくは、かなりの大物がからんでいるとは思うのですが・・・。

【レビュアーから一言】

今巻では、数馬などが剣をふるっての大立ち回りが演じられる場面が少ない仕上がりとなってます。そのかわり、本多家が幕府に命じられて難儀した「お手伝い普請」の話であるとか、吉原で本多政長と数馬を襲わせた越前松平家の御留守居役が、吉原を差配する西田家によって吉原への出入り禁止に近い扱いを受けるところなど、「静かなバトル」は堪能できますね。

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