宇多天皇・醍醐天皇に寵愛されて政治の権を握ったのだが、藤原一門との政争に破れて太宰府に左遷され、死後、祟り神となって時の権力者である藤原時平ほか藤原四兄弟をとり殺したとされる「学問の神様」菅原道真と、平安時代きってのプレイボーイとして有名な在原業平の二人の活躍を描く「応天の門」シリーズの第十二弾。
前巻までで、その頭の鋭さで在原業平が抱える都中での怪事件を解決し、彼の相談役的な役回りにされてしまった菅原道真。その役回りを逆用して、伴善雄や藤原良房・藤原基経という激しい政争を繰り広げていた二つの勢力の間で、兄の死の真相に迫りつつあったのだが、いよいよ、双方の勢力が彼の取込みに本気を出し始めてくる兆しが見えるのが本巻。
【構成と注目ポイント】
構成は
第六十二話 菅原道真、盗人に疑わるる事 二
第六十三話 在原業平、山中に桃源郷を見る事 一
第六十四話 在原業平、山中に桃源郷を見る事 二
第六十五話 在原業平、山中に桃源郷を見る事 三
第六十六話 土師忠道、菅原道真と遇する事 一
となっていて、第六十二話は、前巻で老人から硯を奪い、怪我をさせて死に至らせた窃盗+傷害致死の犯人として検非違使庁に捉えられた道真のその後が描かれる。道真は疑いを晴らすために、都で貿易商を営んでいる、唐のもと女官の昭姫や大学寮で聞き込みを続けます。真犯人の捜索に一日しか猶予が与えられていないので、当然熱も入ろうというものですが、その熱心さが功を奏して、大学寮の学生で三人でつるんで悪さをしていた男たちがいたことを突き止めます。
この三人をうち一人が硯を売り払おうとしていたらしいのですが、なんと流行病で三人とも急死したとのこと。まだ忌中の家から、どうやって硯を取り戻すか、道真の「知恵」が試されるところです。
第六十三話から第六十五話は、平城天皇の孫・在原善淵の領地に巡察に赴いた業平が見舞われた災難が発端。その領地には、女ばかりが生まれ、その女達も十五歳になるまでに半分位所が死んでしまうといういわくつきの村がある。そこはずっと昔、病が流行り、それを鎮めるため、若い娘が何人も人柱とされたたたりでそうなったという言い伝えが残っている。巡察の途中で、業平は崖から滑り、沢へ落ちてしまうのだが、そこで、隠れ里のような場所で三人の娘に看病されて一命をとりとめます。
その後回復して、そこから村へ帰ってくると、その娘の一人は先月死んだ村の娘によく似ていると村の老婆の証言に愕然とする。もし、その言葉が真実であれば、その隠れ里は「死者の国」かもしれず、そこで業平は「粥」を口にしており、死者の国で死者の食べ物を口にした者は、この世に戻ってこれないというが・・・という筋立てです。
業平が再びあの世へ連れて行かれないよう、業平と家臣の是則に頼まれた道真が現地に出向き、業平が落下した沢のところで、奥が広い田畑のある地へつながる洞窟を発見します。
どうやら、これが隠れ里の正体らしいのですが、洞窟を抜けたところで、道真と業平は村人たちに囚われてしまいます。さて、この土地にどいう秘密が・・・、という展開です。
少しネタバレをすると、この隠れ里は、村人たちが重税から逃れるためつくりあげたものなのですが、道真がこの里をこれからも政府から隠し通していく秘策をアドバイスします。
第六十六話では、第五巻で、針を失くして取引先を無くしそうになっていたところを助けた「タマ」ちゃんが登場します。相変わらず、仕立物に頑張っていて、親孝行で健気な娘は健在です。
この彼女が、伴善雄の従者にぶつかって彼が持っていた酒瓶を壊して因縁をつけられているところを、左大臣・源信の家臣の土師忠道とともに切り抜けたことで、これから道真が巻き込まれる事件の発端となります。
その忠道は甲斐の国の出身ということらしいのですが、その頃、富士山が噴火し、甲斐の国では少なくとも3つの村が焼け消えたということのようなのですが、大納言・伴善男は現地へ調査団を行かせるべきだと主張していて・・・ということで次巻へ続きます。
【レビュアーから一言】
今回、硯泥棒の容疑は、道真が真犯人を突き止め、硯を取り戻すことによって晴らすことができたのですが、これと並行して、参議・藤原基経からの釈放要請が別途なされていることが判明します。その御礼を言うため、基経と面談した道真は
という基経に謎の言葉に当惑します。道真の兄の死に関連することのようですが、彼にはまだ何のことかわからない状況ですね。ただ、自分の仕えろという基経の誘いを断った道真に身の上に、これからどんな干渉が基経からあるのかは次巻以降の展開ですね。
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