美人時計店主・時乃によってアリバイは溶けていく ー 大山誠一郎「アリバイ崩し承ります」

本格ミステリーの肝は、犯人が知恵を絞って考案する「トリック」をいかに見破るかというところにあって、その中でも犯人の「アリバイ」をどう崩すか、というのは一つの大きなジャンルにもなっている。
そんな「アリバイ崩し」と「アリバイ探し」を時計屋の若い女性店主が家業の時計販売と修理の「副業」として請け負う、というのが本書『大山誠一郎「アリバイ崩し承ります」(実業之日本社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

収録は

第1話 時計屋探偵とストーカーのアリバイ
第2話 時計屋探偵と凶器のアリバイ
第3話 時計屋探偵と死者のアリバイ
第4話 時計屋探偵と失われたアリバイ
第5話 時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ
第6話 時計屋探偵と山荘のアリバイ
第7話 時計屋探偵とダウンロードのアリバイ

となっていて、まずは県警の捜査一課に勤務する新米刑事の「ぼく」が、街の少々さびれた「時計屋」に訪れるのだが、。その時計屋では、時計の販売・修理のほかに「アリバイ崩し」とアリバイ探し」もやっていて、その料金は格安の「五千円」というところから開幕。しかも、そのアリバイ崩しを請け負うのが、店主の若い女性というのだから、なぜ彼女」がそんな商売をしているのかなど、不思議に思うところが満載で、思わず引き込まれる設定ですね。この彼女に、新米刑事の「ぼく」が捜査で行き詰まっている「アリバイ」崩しを、その時計店の店主に毎度毎度依頼をしてくるのだが、その店主は店に座ったまま、「ぼく」の話を聞くだけで、事件の謎を解き明かし・・・という展開。

で、その「アリバイ崩し」といいうのが、かなり「本格もの」で、例えば第一話の「時計屋探偵とストーカーのアリバイ」では、大学教授の女性が殺され、その夫で今はストーカーのようにつきまとっている元・夫が犯人と疑われるのだが、胃に残っていた、被害者が昼に食べたケーキの消化状況によって割り出された犯行時刻には、その元・夫は友人二人と居酒屋で酒を呑んでいたことがわかったのだが・・・、という筋立て。少しネタバレすると、このケーキを食べた時刻の偽装と、犯人は本当にこの元・夫の単独犯なのか、といったトリック。

さらに、第二の事件は、製薬会社に勤めるサラリーマンが殺害されるのだが、彼を銃殺した拳銃が、彼が殺されたと推測される時間より先に、炎症反応がついたままで発見されるのだが、といった設定。殺された被害者は勤めていた製薬会社のモルヒネの横流しを見つけたため殺された疑いがでてきたのだが、その横流しに関与していると思われる被害者の上司は、ちょうど親戚たちと喫茶店にいたことがわかってしまい・・・という展開である。

いずれの話のアリバイも、「ぼく」が事件の様子を店主に相談して数分のうちに「時を戻すことができました。」という言葉とともに鮮やかに解き明かされていくので、その手際は鮮やかの一言ですね。

【レビュアーから一言】

本書の探偵役は、「美谷時計店」の「美谷時乃」という女性なのだが、その様子は「二十代半ばだろうか、小柄で色が白く、ボブにした神に、円らな瞳、小さな花とふっくらとした頬をしている。どことなく兎を思わせる雰囲気」といった感じでなんとも想像をたくましくさせる設定です。ここはテレビドラマ化されてた時の主人公「浜辺美波」ちゃんを思い浮かべながら読んでみるのもいいかもしれません。

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