現役介護ヘルパーが、誰にも身近で切実な「介護」の生の姿を語る

「介護」の話というと、実際に家族の介護に直面している人にはとても負担の大きな課題となっていることがあるに対して、まだ親たちが若かったりすると、どこか遠くの話題にようにとらえられていることが多くて、社会福祉関係予算の議論がされるときも、なぜか痒いところを服の上から搔いているような感覚がつきまとうことが多いのでがなかろうか。

おそらく、その原因は、「介護の現場」の姿をきちんと知らされていないことも多いのではないか、と当方は思っていて、その意味で、現職の介護ヘルパーである筆者による『藤原るか「介護ヘルパーは見たー世にも奇妙な爆笑!老後の事例集」(幻冬舎新書)』と『藤原るか「介護ヘルパーはデリヘルじゃないー在宅の実態とハラスメント」(幻冬舎新書)』は貴重な、現場レポートといっていい。

【構成と注目ポイント】

構成は

2012年に出版された第一作の「介護ヘルパーは見たー世にも奇妙な爆笑!老後の事例集」が

第一章 介護はある日、突然やってくる
第二章 恐るべし、認知症
第三章 コツさえわかれば、認知症はこわくない
第四章 やっかいなのは認知症だけじゃない
第五章 介護でわかる家族の素顔
第六章 介護を乗り切れる人。つぶれる人
第七章 介護保険制度をうまく利用するコツ
第八章 ヘルパーが見た介護業界の現実

2019年に出版された第二作の「介護ヘルパーはデリヘルじゃないー在宅の実態とハラスメント」が

第一章 介護現場は最も危険なセクハラ横行地帯だった
第二章 在宅介護でよくあるパワハラ
第三章 在宅で直面するてんやわんやの出来事
第四章 ペット全盛時代の訪問介護はむずかしい
第五章 介護をめぐる殺人事件
第六章 ハラスメント実態調査からわかること
第七章 超高齢者会にヘルパーは欠かせない

となっていて、一作目が介護の相手方となる認知症の老人の人を介護するヘルパーの実態や、老人の家族の様子、二作目が、介護現場の「陰の部分」としてつきまとうセクハラ、パワハラといったハラスメントの実態についてレポートされている。

まず第一作目のほうは、筆者の介護経験から「認知症」のお年寄り達の行動などにフォーカスして、例えば

夫の死後、認知症が進んでしまい、亡くなった夫と結婚して家を出た娘とあわせて参人分の食事をつくり、毎食時「あなたー。食事ができたわよー」と2階に向かって声をかけるのだが、誰もテーブルにつかないので、家族が帰ってくるのを待って食事をとろうとしない奥さん

であるとか

日頃の言動はしっかりしている風なので介護度の認定レベルは低いのだが、計算ができなくなっているため、買い物をすると、毎回、お札を出してはおつりをもらうということを繰り返し、洗面器に小銭が山のように溜まっている老夫婦

といったエピソードから始まって、認知症の老人の介護でよく聞く、家族などへの「盗人」よばわりまで、介護にまつわる様々な話を軽快に紹介しながら、ヘルパーの仕事の様子をレポートしている。本来なら深刻になって、暗くなってしまいそうな話題がたくさんあるのだが、筆者の人柄なのだろうか軽妙でユーモラスな語り口がそのあたりを緩和しているので、落ち込むことなく読める仕上がりになっている。

そしてそれは、第二作でも共通で、本来なら身の危険すら感じてしまいそうな、

身支度をしていると、いつの間にか後ろに立って、移動すると追いかけてくるので。テーブルの周りをぐるぐると追いかけっこをすることになった

セクハラの様子とか

利用者である夫からヘルパーがお礼を言われてことに嫉妬したのか、そのヘルパーに
「もう来ないでください」と言い渡す奥さん

であったり、ヘルパーの介護にケチをつけたり、怒鳴ったり、見下した扱いをしたり、といったパワハラの状況がレポートされているのだが、筆者がこの仕事に誇りをもっているせいか、暴露本に堕することなく、あまり語られることのなかった「介護の陰の部分」をきちんと読むことができる。

ただ、これらのレポートを受けて、我々読み手として考えないといけないのは、これを全体の問題、自分に身近な問題としてどう向き合い、制度的な対応策をどうするのか、といったところなんであろう。社会福祉は金がかかるから削減が必要といった識者の発言によっかかっているだけでは解決しないような気がしますね。

【レビュアーから一言】

社会福祉の問題というと、とかく深刻になって感情的な議論にいってしまうことが多いのだが、筆者のような、現場にいる人による、深刻すぎないが的を得たレポートというのがとても貴重なものに思える。介護の世界の人材難が続く中、多くの人に読んでおいてほしい二冊であります。

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