野球界の「コーチング理論」はまだまだ有効 ー吉井理人「最高のコーチは教えない」

当時の近鉄バッファローズを皮切りにヤクルトや千葉ロッテといった国内球団や、メッツ。ロッキーズといったメジャーリーグでも活躍し、現在はプロ野球球団のコーチを勤めている筆者による「コーチング論」が本書『吉井理人「最高のコーチは教えない」(Discover)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 なぜ、コーチが「教えて」はいけないのか
第2章 コーチングの基本理論
第3章 コーチングを実践する
第4章 最高の結果を出すコーチの9つのルール

となっていて、主として、筆者がプロ野球の現役を引退し、日本ハムファイターズの投手コーチをしていたときの経験を中心に、筆者の「コーチング」についての考えが披瀝されているのだが、はじめのほうで、「コーチの仕事は、選手が自分で考え、課題を設定し、自分自身で能力を高められるように導くこと」とされているのは、とかくプロ野球出身者の「コーチング論」は、気構えとかガッツとかの精神系の話で始まるようなイメージが当方にはあったので、新鮮な印象をまず受けた。おそらく、それは筆者の

現代の野球は、限りなく個人競技に近い団体競技である。 プロ野球界はコーチが主体になり、コーチが自分の手柄を挙げるために指導をしている面がみられる。コーチの力が強く、威圧的で、選手はコーチの言うことさえ聞いていればいいというイメージがある。 しかし本来、主体はコーチではなく選手である。選手が最大限の能力を発揮できるように、選手がどのように競技をしていきたいかを中心に考えるのが、コーチングの基本的な考え方

といった、「野球」に対する考え方が従来のそれと違っているところからくるのだろうが、このあたりは、チームとしてのまとまった活動より、個人の能力を集めた「チーム」の総合力を求める方向へと変わっている今のビジネス場面での「コーチング」へ応用できる証ともなっている。

そして、本書で紹介する

課題設定のやり方を身につけさせる目的で実施していたのは、試合後の「振り返り」である。 自分のプレーを自分で振り返ることで、選手たちにいろいろなことに気づいてほしいからだ。 最終的には、考えることなく身体が勝手に動くようになってほしい

選手から気づきを引き出すためにコーチが言うべきは「じゃあ、その配球はどうすれば良かったと思う?」という問いかけである。 コーチは、選手に自分の言葉で語らせることに、徹底して意識的にならなければならない

といったところは、新規採用職員や若手を指導するメンターの役割を担わされたビジネスパーソンにも参考になるのではなかろうか。

さらに

基本的に僕のコーチングスタイルは、はじめに「観察」する。これはほとんどのコーチがやっていると思う。次に「質問」する。コーチから選手に「何をやりたいか」「どう思っているか」などを聞く。最後に、その選手の立場に立って「代行」する。指導する選手にはどのような方法が合うか、どう伝えればいいか、その選手になりきって考えるという意味だ。この三つの段階を経たうえで、具体的な指導を選手に伝えるようにしている。

といったところは、先達の方法論として参考になるところであろう。

もっとも、

ビジネスの世界では、自分の課題を見つけ、それをすぐに修正し、自分の行動を変えていくスピード感が問われるという。先ほどのポジティブなタイプの選手への対応は、これと正反対の方向に進んでいるように見えるかもしれない。 しかし、僕は急激な軌道修正をしないほうが、むしろ早く変化すると思っている。

ともアドバイスされているので、性急に結果を求めたくなる向きは注意しておいたほうがいいだろう。

【レビュアーから一言】

最近、流行のコーチング論は、スポーツではサッカーとかラグビー界の人によるものが多くて、野球界の出身のものは少ない状況なのだが、分担がはっきりわかれているスポーツのコーチング論は、まだまだビジネスにおけるコーチング論として有効なものが多いのは間違いない。
特に、経験を積んで部下指導や、後輩指導の役回りとなったビジネスパーソンには、参考になるのではなかろうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました