明智光秀は「逆賊」ではない。秀吉こそが悪党 ー 藤堂裕・明智憲三郎「信長を殺した男 1」

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「本能寺の変」の真相について、真偽のほどはわからないが、通説である明智光秀が、逆恨みしたか天下が欲しくなったかして信長を討って、その後、信長の仇をとって天下を平和に導いたのが、豊臣秀吉であった、ってものに真っ向から反論しているのが、明智光秀の子孫を名乗る「明智憲三郎」氏。その明智氏の著書「本能寺の変 431年目の真実」を底本にコミカライズしたのが、この「信長を殺した男〜本能寺の変 431年目の真実〜」シリーズである。

【構成と注目ポイント】

第1巻の構成は

第1話 逆賊
第2話 麒麟
第3話 本圀寺
第4話 姉川
第5話 比叡山
第6話 彌介

となっていて、まずは本能寺の変のところからスタート。このシリーズは、逆賊として扱われてきた「明智光秀」の無実を証明する、ってな感じなので、明智光秀は、戦乱を終わらせることを第一の目的と考えているに対し、

豊臣秀吉は「信長様の仇討ち」と叫んではいますが、天下を奪う野心丸出し

の姿で描かれてます。

このへんは、宮下英樹さんの「センゴク」シリーズの豊臣秀吉とは違う「悪役」になっているので、秀吉ファンには不満の残るところかもしれません。ただ、「信長協奏曲」や「へうげもの」でも秀吉は昔ながらの明るくて人柄のよい武将とは描かれていないので(両方とも「乱破」つまりは忍者あがりで裏稼業をやってきた人物になってますもんね)、明智側からみた秀吉像としてはこんなイメージなんでしょうね。

一方で、信長が、部下に厳しい、残虐で冷酷無道な君主としてではなく、才能に溢れているが、人間味のある武将として描かれているので、

信長ファンには嬉しい描き方かもしれません。

話のほうは、第一巻では、光秀が信長への仕官後、将軍義昭を三好三人衆と斎藤龍興が襲った「本圀寺の合戦」から姉川の合戦を経て比叡山の焼き討ちまでが主となって描かれています。ここで将軍義昭は

といった感じで、信長が自らを将軍位におしあげてくれたことを忘れて権力闘争をしかけてくる輩に描かれています。まあ、権謀術数の塊で、力をある方にすぐなびく人だったらしいので、無理もないのですが、同じく権謀術数の塊と思われる徳川家康が

といった感じで、信長の政治構想の理解者として描かれています。

豊臣家から政権を盗みとった狸親父として描かれることの多い家康を、かなり持ち上げていて、信長の良き協力者という扱いですね。このあたりを見ると、原作者の主張する「本能寺の変では信長以外の者が殺されるはずだった」という説(これは第一巻の最後のほうで、信長の忠実な従者となっていた黒人の「彌介」が宣教師に告白しています)は、ちょっとどうかなーと思うのですが、次巻以後でここらはおいおい説明されていくんでしょう。

さらに、史上悪名高い、「比叡山の焼き討ち」も

と明智光秀の献策によることとなってます。このへんは、「僧侶」とはいっても、実態は、

といった感じで袈裟を着た「金貸し」となっていた寺社勢力の親玉せ、しかも、信長の仇敵である浅井・朝倉勢を匿っているのですから、信長や光秀にしてみれば「焼き討ち」もやむなしといったことになんでしょうね。延暦寺も、おそらくは冷静に戦況や戦力分析をしていたのでしょうが、乱暴に言うと、将来性を見誤り、信長を侮って失敗こいた、ってなところでしょうか。

【レビュアーから一言】

Amazonのレビューでは酷評するものもあるのですが、本能寺で、明智光秀が信長を討った理由ってのは、定説が定まらない状況なのですから、そんなに目くじらたてなくてもいいんじゃない、と思ってます。
歴史学者でもない当方のようなブック・レビュアーにとっては、異説・珍説のほうがレビューしがいがある、というもので本シリーズの話の展開は楽しみにしております。ただ、話が時系列でなく、あっちこっち飛ぶので、素人的には苦労するところはありますね。

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