北海道のローカル駅の秘められた物語はどこへ繋がる? ー 山本巧次「途中下車はできません」

山本巧次

現代から江戸へタイムスリップした女性が、現代技術を使って市中に起きる事件を解決する「八丁堀のおゆう」シリーズ、腕利きの元八丁堀の定廻り同心と御家人出身の鉄道省の技手が明治初期の鉄道建設現場でおきる事件の解決をしていく「開化鐵道探偵」シリーズなど、時代もののミステリーを著してきた筆者が、その鉄道好きを生かしておくる現代を舞台にした鉄道ミステリーがこの『山本巧次「途中下車はできません」(小学館)』。

北海道のローカル線の駅の周辺都市を舞台にして、オムニバス形式の物語が続いて、最後にそれがターミナル駅の札幌に集約していく、ってな感じですね。

途中下車はできません

途中下車はできません

  • 作者:山本 巧次
  • 出版社:小学館
  • 発売日: 2019年07月10日

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 富良野線 美馬牛駅
第二章 釧網本線 北浜駅
第三章 宗谷本線 音威子府駅
第四章 根室本線 落石駅
第五章 函館本線 札幌駅
終章 富良野線 美馬牛駅

となっていて、まず第一章は、北海道中部の美瑛町美馬牛の「富良野線 美馬牛駅」。ここで紅茶のカフェを開いている久内三和が札幌を離れ、店を構えることになて理由が語られます。この店にやってきたカメラマンの富樫里恵は、紅茶を保管する倉庫のおいてあった毒入り紅茶や珈琲で毒殺する映画のDVDに、なにか犯罪の匂いを感じるのですが、これは邪推というもののようですね。ネタバレを少しすると、札幌在住中に結婚詐欺で貯金を巻き上げた男への復讐をはたすため牙を研いでいる、というところですね。

第二章の「釧網本線 北浜駅」は、認知症になっていて、家を出て行方のわからなくなった祖母を探しにやってきた大学生・野地原康生の話です。祖母の叔母が住んでいる町の近くにあるこの駅にやってきたのですが、札幌から帰ってきた娘を追ってきたストーカーと間違えられて、父親に捕まりそうになります。ところが、このストーカー騒ぎには、その娘が札幌での辛い経験があって・・という展開です。

第三章の「宗谷本線 音威子府駅」では会社の資金を持ち逃げした社員を追ってきた経理課長が被る災難です。その社員・酒井は音威子市の蕎麦屋で住み込みで働いているのを発見され、札幌にある、資金を持ち逃げした会社へ連行されることになるのですが、彼は、会社がこの横領事件を表沙汰にできない秘密を握っていて・・、ということで、窮鼠猫を咬むといった状況となります。

第四章の「根室本線 落石駅」は違法カジノの片棒を担いで大儲けをすることw企んでいた「振り込め詐欺グループ」の下っ端が、逆に騙されて詐欺グループの資金を失ってしまい、彼らから逃れるための、偽装自殺を仕組む話。いろいろと仕掛けをするのですが、観光客や悪天候に邪魔をされてなかなか思うようにいかないのが、彼の「運のなさ」を表しています。

第五章では、いよいよ今までの話の関係者が「札幌駅」めがけて集結していきます。そこで何が起きるかは、本書のほうでお楽しみください。この筆者の作品なので、「大団円」という結果にほっとするところでありますね。

【レビュアーから一言】

札幌駅を除いては、いずれも地方のローカル鉄道の駅近くで起こる物語で、どことなく「寂しさ」が漂う物語が多い構成です。ここらあたりは、鉄道マニアである筆者の本領発揮というところなのでしょうが、地域活性化に関連した仕事をしていた当方としては、鉄道が地域を元気にしていた時代が遠くへ去っていったことを感じて、少々寂しくなりました。

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