菜富お嬢様の「名探偵宣言」の結末は? ー 伽古屋圭市「帝都探偵 謎解け乙女」

大正時代というと大正デモクラシーとか大正ロマンであるとか、なにかと血なまぐさい事件が多く、「武断」の感じの強い「明治」と「昭和初期」にはさまれて、たおやかな感じはするが、なんか頼りない感じがするのは当方だけでないはず。

こんな「大正時代」を舞台にして、シャーロック・ホームズに憧れ「あたくし、名探偵になることに決めましたの」と宣言する紡績業を経営する実業家の令嬢である菜富(なとみ)お嬢様と、彼女の家の人力車の専属車夫をしている俺・寛太がコンビでおくる探偵物語が、本書『伽古屋圭市「帝都探偵 謎解け乙女」』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章
第一ノ事件「死者からの手紙」
第二ノ事件「密室から消えた西郷隆盛」
第三ノ事件「未来より来たる男」
第四ノ事件「魔炎の悪意」
第五ノ事件「名探偵の誕生」
終章

となっていて、名探偵宣言を出したはいいが、「菜富」お嬢様は、今まで事件の推理なんてものはしたこともなく、名探偵となる方法は、「寛太」が考えることを命じられる、という妙な展開なのですが、「寛太」は父親の代から、この菜富お嬢様の生家・仁井田家に勤めている上に、子どものころ、彼が大道芸人見物に、菜富お嬢様を誘ったのが原因で、彼女を自動車事故にあわせてしまった、という負い目があるので、何を言われても逆らえない、という設定です。

まず、第一話の「死者からの手紙」は、朝比奈ハルという18歳前後の清楚な女性の依頼で、彼女のところへ、女学校時代に特別に親密な関係にあった(「エス」の関係)にあった女「播井紅子」という女性から手紙が届き、ある場所へ来てほしい、との依頼が記されていた。しかし、その「紅子」という女性は二年前に病死しているのだが、果たしてこの手紙は死者からの呼び出し状なのか・・・、という筋立てです。

二度目に呼び出される無人の屋敷で、ハルの「妹」を名乗る女性が事件のカギを握ってます。
そして、事件を解決するごとに、主人公の「名探偵」菜富お嬢様が決め台詞を発するのですが、この話では「すべてお見通しですわ!」「そう、まるで鎌倉の材木座海岸のように」といったもので、毎回不思議な決め台詞が聞けることになります。

第二話の「密室から消えた西郷隆盛」は、東京市の近くの荏原郡の目黒村に工房を持つ「須藤ナヲ」の依頼。

彼女は彫刻家の鳶沼宗峰のところに弟子入りしているのだが、その工房の作品を収めている蔵から「西郷隆盛」像が消えてしまった、という謎。その蔵は完全に閉ざされていて、誰も出入りした気配がないという完全密室状態での事件です。

ネタバレとしては、江戸川乱歩の「人間椅子」みたいなトリックですね。

第三話の「未来より来たる男」では、二人の前に、「未来から来た」と名乗る男がやってきます。彼・有田モンドは、これからロシアのロマノフ朝が潰れるのだが、そのときに失われた多くの秘密文書と膨大な財宝の行方を記した「なにか」を託された男・針生錠吉を探してほしいという依頼をしてきます。

依頼を受けて、その男を探しだすのですが、モントと錠吉は、菜富を人質にして、彼女の父親から金を奪い取ろうと豹変します。彼女の父親に生糸工場を潰されたと逆恨みをして、共謀して菜富と寛太をだましていたということのようです。

さあ、菜富に命の危機が・・・というところで、真相が明らかになるのですが、その黒幕はなんと、菜富の姉の「香芳」で、という展開です。

第四話の「魔炎の悪意」では、仙道瑠璃子という美貌の女性が依頼者となります。彼女は、近々、日向文雄というお金持ちと結婚する予定なのだが、最近、日本橋で、元の夫の姿を見かけたと告白する。しかし、彼女の元の夫は、火事で死別しているはずなのだが・・というものなのですが、寛太が、ひょっとすると、この男は死んではいなかったのでは、と推理するところから謎解きが動き始めます。

依頼者の意外な素顔が、事件の謎を解くカギとなりますね。
そして第五話の「名探偵の誕生」と「終章」で、今までの4つの事件の意外な仕掛けが明らかになります。

あわせて、菜富が幼いころにあった交通事故の加害者も判明し・・・といった感じで展開するのですが。ここは筋立てが二転三転しているので、本書のほうで確認してください。

【レビュアーからひと言】

残念ながら、本書はすでに絶版になっていて、中古本でしか手に入らなくなってます。ひ筆者の出世作でもありますし、なかなか面白い仕立てになっていると思うのですが、Kindle本にもなっていないのは、終章のところで明らかになる、菜富が交通事故で被った被害に関する描写が関係しているのかもしれません。リライトで対応できるのなら、そうして再販されてもよいのでは、と思うのですが・・・。

Bitly

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