絵麻の「尖塔ポーズ」は犯人の「大脳辺縁系」を追い詰める ー 佐藤青南「ツイン・ソウル」

佐藤青南

行動心理学の手法を使って、隠している真実を、犯人の口からではなく、「大脳辺縁系」から聞き出していく、腕利きの美人捜査官「楯岡絵麻」が篤訳する「行動心理捜査官」誌シリーズの第8巻が『佐藤青南「ツイン・ソウル 行動心理捜査官・楯岡絵麻」(宝島社文庫)』。

今巻では、あいかわらず男性と縁のない「エンマ」サマをしり目に、いつも取調室で問いつめられている「西野」が、シリーズ七巻目の「セヴンス・サイン」で再会した高校の同級生・坂口琴莉と付き合い始め、あいかわらず、お色気たっぷりの「サンプリング」のあとの「尖塔ポーズ」が象徴的な「絵麻」の見事な「尋問」の合間合間に、そのあたりの話が挿入されて色を添える展開です。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 人気者を殺ってみた
第二話 歪んだ轍
第三話 トンビは何を産む
第四話 きっと運命の人

となっていて

最初の事件の「人気者を殺ってみた」は江東区千石の路上で若い男が暴行死するのですが。被害者・米田祐作は副業として動画投稿を行っていて、彼のぼったっくリバーなどへの潜入ルポなどの動画チャンネルの登録者は10万人に登る人気者です。

容疑者としてあがったのは暴力団の構成員の「岩政」という男で、被害者が動画の自撮り中に映り込んでいた画像が逮捕のきっかけとなのですが、「岩政」は事件への関与どころか、現場にも行っていないと全面否認です。

証拠は画像の鮮明でない「動画」だけということで、エンマさまの出番となったわけですね。
そして、ここで絵麻のいつものおとしのテクニック、「相手をちやほやしたり、色仕掛けとも思えるような親しい態度」が炸裂するのですが、サンプリングの20分間が終わった後の豹変ぶりが相変わらずスゴイです。

絵麻は、暴行現場に行っていないと主張する容疑者をいつもの「地図帳」でおいつめ、米田の動画チャンネルにボストンバックを抱えて歩く岩政らしい姿が写り込んでいたことをつきとめると、「岩政」は犯行を突然、自白するのだが、そこには彼が警察に捕まりたい別の理由が隠されていて・・・という展開です。

第8巻の出だしの物語として、絵麻の「尖塔ポーズ」を堪能してください。

第二話のお事件は、古物業者の社員二人が、出張買取で行く途中で襲われ現金を奪われる事件です。犯人の一人として捕まった「鳥飼」は、絵麻にいつも取り調べを横取りされ、ケンカの絶えない同僚刑事・筒井が過去に関わった犯罪者であった、という設定ですね。

筒井が以前、彼を逮捕した時、悪い仲間から抜けてやり直すよう説得できたと思っていた人物の再販なので筒井のショックは大きい。さらに、当時、逮捕後も彼を支えるといっていた妻と離婚したと聞いて二重にショックなのだが、離婚の件は、これから産まれる子供が不憫な思いをしてはいけないと、鳥飼のほうから持ち出した様子。

そして、鳥飼は、今回も共犯者のことを告白せず、自分一人の犯行だと言い張る。しかし、今回は共犯者をかばっているのではなく、何か脅されている様子。ひょっとすると、鳥飼と離婚した妻が連れている娘になにかあったのでは・・・という展開。

娘になにかあったのは間違いなのですが、っこで、もうひとつ、どんでん返しのあるところがこの作品の一癖あるところですね。

第三話の事件は、老人宅へ通うホームヘルパーをしていた女性「河北小百合」が殴る蹴るの暴行を受け死亡した事件。

質素な暮らしをしていて、職場の評判もよく、他人に恨まれることのない女性の殺人事件でゆきずりの犯行という線もあったのだが、彼女が訪問介護をしていた老人に気に入られて養子縁組をしていたことは判明します。その老人は、階段から落ちたらしい怪我で意識不明になって、被害者が殺される二日前に死亡していたのだが、怪我で入院して被害者が殺されるまでの間に、養子縁組が解消されていたことがわかります。その老人には数億の遺産があったため、相続人となる老人の娘・好美が、容疑者として「絵麻」の前に連行されてきた、という次第。

今回の絵麻の「オトシ」は、相手が女性とあって、いつもの「色っぽい」サンプリングをしてからのやり方ではなくて、相手を挑発して「怒らせて」追い詰めるやり方ですね。

そして、追い詰められた好美が、被害者の世話の焼き方が普通のホームヘルパーの仕事よりかなり肩入れしていて、ひょっとすると最初から養子縁組によって遺産を手に入れる魂胆で近づいたのでは、と主張します。

それに対して、絵麻はなんと「そうよ」と平然と肯定するのですが、その意図は?、そして、河北殺害の犯人と好美の容疑は一体何・・・、といった展開です。

「河北」の意外な正体と、予想していなかった殺人事件の出現に驚くこと間違いなしですね。

最終話の「きっと運命の人」は都心で刃渡り17センチの包丁を持って現れ、通行人を襲撃しようとした事件なのですが、犯人の「日比野」はその場で取り押さえられ被害者はなし。そして、犯行理由もちゃんと答えるし、反省している風もある、というものです。

本来なら絵麻が出張ってくる必要はないのですが、「日比野」のサンプリングと聞き取りをしているうち、絵麻は今回の未遂事件のほかに隠している犯罪があるのではと疑惑をもちます。さらに、ゴシップ記事専門の雑誌の記者・畑中とい男が、絵麻の同僚の西野に、「日比野」が釈放されれば次の標的は、西野の恋人だ、と不吉な予告をしてきます。

さて、「日比野」の意図は・・・といった展開ですが、結局のところ、絵麻の疑いは「ビンゴ」で、彼は、以前、快楽殺人でひき逃げをしたことが判明するのですが、それを唆したのが、畑中らしく・・といった筋立てです。

まあ、ここでふーむと唸りつつも、現在の法体系では畑中を逮捕できないことに怒りを覚えたりするのですが、実はもう一段、仕掛けがありますので要注意です。

【レビュアーからひと言】

このシリーズで、絵麻の周辺で彼女を引き立てていたのは、西野、筒井、綿貫といったゴツイ男たちばかりだったのですが、今巻から「白い肌にぱっちりとした目。愛嬌のある顔立ち。おまけに胸もデカい」という、世田谷南署から転勤してきた「林田シオリ」という若い女性警官が登場します。

彼女は、絵麻のファンらしいのですが、その可愛らしい風貌で、三人の男を手のひらの上でころがす、したたかな女の子です。彼女は、絵麻たちの捜査や尋問の時に、よく顔をのぞかせてくるのですが、かなり「鋭い」指摘もする「キレ者」の感じがしますが、これからどういう役割を果たすのか楽しみなところではありますね。

ツインソウル 行動心理捜査官・楯岡絵麻 (宝島社文庫)
累計54万部突破の「行動心理捜査官・楯岡絵麻」シリーズ(通称エンマ様シリーズ)...

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