「黒い女神」リーは、チャイナタウンの人柱となるか ー 「七人のシェイクスピア(Part1)1」

七人のシェイクスピア

大英帝国が絶頂を迎えたエリザベス一世の時代に、イギリス・ルネッサンスの本場ロンドンで、劇作家として世に出現。以後、演劇の世界に大きな影響を及ぼし続けている「シェイクスピア」の半生記と彼の創作の秘密を描く「七人のシェイクスピア」Part2のビフォーストーリーであるPart1の第1巻。

シェイクスピア・チームの重要な役割を持つ「ブラックレディ」、「詩の女神」リーが、シェイクスピアたちに出会う前、故国を脱出してたどり着いたイギリスのチャイナタウンで、そこの住民たちから災害を鎮めるための生贄にされそうになる、彼女の黒歴史が描かれるのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1話 プロローグ
第2話~第10話 チャイナタウン①~⑨

となっていて、プロローグのところでは、このシリーズの到着点であろうシェイクスピアが「ハムレット」の公演でロンドン中の評判になっているところからスタート。

そこに、シェイクスピアの”本物”の脚本を小さな印刷所に売りつけようとする行商の本屋・トマス・ソープが、ハムレットの筋を語るのですが、酒場に居合わせた男が自分の知っているハムレットと台詞も話の筋も違うと言います。

詐欺師だと酒場を追い出されるソープは、シェイクスピアは「下衆野郎の詐欺師だ」と叫ぶのですが、当時すでに有名な劇作家で役者としても人気者であったシェイクスピアなのですが、なにか秘密がといった滑り出しです。

さらに、ロンドン市の劇場内で警吏と争うシェイクスピアに対し、お忍びであるにも関わらず、顔をさらして拍手する女王の姿が描かれます。

そして、自宅へ帰ったシェイクスピアが女王のお褒めの言葉を伝えると、同居人たちの口から「陛下は、またりーを所望なのですね」という言葉が出ます。

さて、”「リー」とは?”といったところで、シリーズの開幕です。

時代はハムレットの書かれた1600年より13年前の1587年にさかのぼります。舞台は、イギリスの港町リヴァプールです。
ここで、イギリス人の少年たちに石を投げられている少女二人のうちの一人、喉に「バッテン」の焼印の跡がある少女が、このシリーズの主人公の一人「リー」ですね。

この印はイギリス人にとっては、「悪魔の刻印」と見えるらしく、少年たちは逃げ去るのですが、下手をすると魔女狩りの対象になりかねないものですね。

そして、この刻印がつけられたそもそもの原因は、リーガまだ中国に住んでいた頃、道ですれ違った男性の急死や、妊婦の奥さんの流産を大きな声で予言したことがもとで周囲の人々に不気味がられ、そのせいで、村八分になりそうになったため、父親から声を潰すために付けられた焼印ですね。

彼女は、この焼印のせいで生死の境を彷徨い、声がほとんどでなくなってしまうのですが、予言の能力は失われることがありません。イギリスにたどり着いてから、親戚に飯屋を開業させ、居場所をつくることに成功するのですが、これがリーの運命をさらに変転させることになります。

当時、このリヴァプールのチャイナタウンが絹織物の貿易で栄えていたのですが、暴風雨が続き、船が港につかないため、タウンの商売がたちゆかなくなってきます。

町の長老は、この危機を逃れる方法を3つ、「米俵、百俵を川に流すこと」「数十件の家を壊し、その土で堤防を築くこと」「十代の美しい処女で腰以上に長さの髪を伸ばしている女性を生贄にささげること」を提示し、この中から、最善の方法をリーに選ぶよう依頼します。

そして、リーが選んだ方策は、最後の「生贄」の手段なのですが、その対象として、最初選ばれたリーと仲のよい従姉妹の「シャイ」の身代わりに「リー」が名乗り出ます。

不吉な予言の能力をもった娘をついでに始末できるため、タウンの人たちはほとんどの人が賛成し、リーを荒れ狂う川の近隣で生贄に捧げようとするのですが・・・、という展開です。

リーが身代わりになった「シャイ」の機転で、リーは助かることができるのですが、タウンのほうは・・という筋立てですね。

【レビュアーから一言】

当時の魔女狩りの際、悪魔と契約を交わした者は体の一部に印を付けられているとする信仰があったようで、リーの焼印はまさに典型的な印と見られる恐れの高いものですね。

そして、ヨーロッパの魔女狩りの最盛期は16世紀から17世紀にかけての時期であったので、まさにこの頃はドンピシャ。さらにカトリックとピューリタンとの対立の激しかったイギリスでは、リーにはとても危険な環境であったことが推測されますね。

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