ハロー・キティやキキ・ララなど「サンリオ」の人気キャラクターによるショーやアトラクションが愉しめる屋内型テーマパーク「サンリオ・ピューロランド」の館長である筆者が、ピューロランド復活にむけて奮闘した日々の中でつかんだビジネスや働き方の極意について教えてくれるのが本書『小巻亜矢「逆境に克つ! サンリオピューロランドを復活させた25の思考」(ワニブックス)』です。
サンリオピューロランドといえば、「KAWAII(カワイイ)」を代表する日本生まれのキャラクターのテーマパークとして大人気なのですが、かつてはサンリオグループの「お荷物施設」と呼ばれていた施設。本書では、これを復活させた立役者の思考経路や行動パターンのキモを「読む」ことができます。
【構成と注目ポイント】
構成は
はじめに
第1章 ハンデは強みに変えられる
第2章 増やすより、濃くする
第3章 イメージは新しく付け加えられる
第4章 「ないないづくし」くらいがいい
第5章 キャリアは自分のペースで積めばいい
第6章 これからのリーダーへ
となっているのですが、まず、本書の背景を少し振り返りましょう。
サンリオ・ピューロランドは1990年12月に開館し、91年度には194万人余の来場数を記録したのですが、長らく初年度の来場者数を変えることができず、「サンリオのお荷物」とまで言われていた施設です。
筆者は、これを2014年に顧問、2016年から館長として引き継いで、新型コロナ流行前の2019年には東京ディズニーランド、ハウステンボスに続いて国内三位の219万人もの来場者のある人気施設に復活させた立役者なのですが、その経歴は
①大学卒業後、サンリオに勤務するが結婚を機に退職
②離婚後、化粧品販売の仕事を経てサンリオの化粧品ビジネス関連会社に復帰
③女性支援を行う企業内ベンチャーや東京大学大学院で心理学を勉強
④大学院で学んだ方向へキャリアを進めようと思っていたところに、サンリオピューロランドを運営していたサンリオエンターテインメント顧問へ抜擢され、2016年にサンリオピューロランド館長へ
といったもので、こういう「テーマパーク」「エンターテインメント」の業界には全く縁のなかった方のようです。
全く縁のなかった分野にやってきてあっという間に成果を出しているのですから、かなりのキレモノで、相当厳しく、周囲をビシバシやるタイプかも、と連想してしまうのですが、本書を読む限り、そういう「厳しさ」よりも「柔軟さ」のほうを感じます。
例えば、開業後、25年近く経っている施設の古さを指摘する質問に
古さには汚くくすんだ古さと、味わい深い古さがあります。 味わい深い古さは、変えてしまうと取り返しがつきません。 なつかしさ、というすてきな価値は、時が経たないと出てこない宝です
であったり、キャリアが中断してしまっていることに悩む質問に対しては
ブランクがあるから絶対に追いつけないと考える必要はないと思います。 ブランクのある人には、続けてきた人とは違うキャリアの積み方があります。 走っている道が違うのだから、追いつこうとしなくていいのです
といったあたりには、経験に裏打ちされた「タフネス」を感じますね。
さらに、異分野から経験や専門性をあれこれ言われるテーマパークの分野のリーダーになったことについて
わからないから良かったのだと、思うこともたくさんあります。 当たり前のことがわからないということは、新しい目を持っているということだからです
外様のリーダーというと、とにかく前任者のやり方を踏襲するか、前任者を全否定するかのごとくあらゆるものをひっくり返すというイメージもあるかもしれませんが、「あれ?」と思ったことのうち、合理性に欠けるものを変えていくという、ちょうど真ん中の立ち位置に立つのがいいのではないでしようか
外から来た新鮮な目で何かを変えようとしたときに「それはできません」と言われることもあるかもしれません。でも、その場合には「できません」の理由を探ったほうがいいでしょう。
という経験談は新しい分野にとびこんでいくビジネスパーソンへの、よい「励まし」となるでしょうし、
周りを引っ張るタイプだったかというと、決してそんなことはありません。どちらかというと、周りの意見を聞いてバランスを取ったり、学校の垣根を越えて人と人を繋いだりするような、調整型のリーダーでした。 今もそうです。 そして、そうしたスタイルが、今の時代には合っているのかなと感じています。 今の時代は、サーバントリーダーシップが発揮しやすい時代だと思います。 誰かが決めたことにみんなで取り組むよりも、 一人ひとり、異なる人の意見をみんなで聞いてみんなで取り組む、つまり多様性を尊重する方向に来ていますし、上を見るより周りを見ながら前を見て、歩調を合わせて進もうとする人が増えているように思うからです
こうした時代のリーダーに必要なことは、前を安心してみていられるようにすること、「ここにこんな人がいるから意見を聞いてみようよ」と声をかけることだと思っています
カリスマリーダーになろうとする必要はありません。 今の時代らしい、新しいリーダーの像があります
といったあたりは、「オレについてこい」がまだまだ褒めたたえられる今のビジネスの世界の「新しいリーダー」の姿を提示してくれています。
【レビュアーからひと言】
本書はジャンルごとに、一問一答形式で編成されているので、最初から最後まで通して読んでもいいし、今、自分が悩んでいるところにフォーカスして読んでもいい、というつくりになっているので、自分のスタイルで読めばいいと思います。
テーマパークの盛衰は、その時々の人気や流行に左右されるところがあるので、サンリオピューロランドの今後は「神のみぞ知る」というところなのですが、「お荷物」からの復活の根底に流れるノウハウや思考方法は他の分野やシチュエーションにも十分応用できるのではないでしょうか。
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