「女人」上杉謙信、越後の守護神が始動する ー 東村アキコ「雪花(ゆきばな)の虎 1」

戦国時代

「キリストが日本に渡ってきて秦氏の祖先となった」とか「チンギスハンは大陸に渡った源義経だった」とか、歴史上の「秘話」ってのは、にわかには信じられないようなものもあるのですが、その「死因が「大虫」であった」とか、「”男もおよばぬ大力無双”と謳われる、越後に伝わる”ごぜ唄”」とか、「幼少時代に過ごした寺に残された肖像画」とかを論拠に「上杉謙信は女性だった」という説があります。

「越後の龍」と称され、「甲斐の虎」武田信玄とがっぷり四つで死闘を繰り広げ、「風雲児」織田信長を怖れさせた「軍神」であり、しかも美しき女人でもある「謙信」が戦乱の世を駆け抜けていく姿を描くのが本シリーズ『東村アキコ「雪花の虎」』です。

【あらすじと注目ポイント】

滑り出しの第一巻では、「謙信」こと幼名・虎千代の誕生から、彼が地元の禅宗の名刹・林泉寺での修行生活が描かれます。がなぜ「男子」として育てられたか、といったところからはじまります。

戦国時代、「井伊直虎」や「岩村城主・おつやの方」、「立花誾千代」といった「おんな城主」は数々いて、国を護るために采配を振るっていた例は少なくないのですが、多くは跡取りがいなかったため、とか夫の城主が早逝したのですが息子がまだ幼いため、といったピンチヒッター的な役割として登場することが多いのですが、このシリーズでは、正当な跡継ぎとなる「実兄」が戦嫌いで女好きという性格で、両国が保てるがどうか心配した父親・長尾為景によって「姫武将」として育てられた、という設定になっています。

このお父さんはかなりのやり手で、上司である守護・上杉家から越後国主の座を力づくで奪った人物なので、スキをみせれば越後の他の国人領主たちがすぐ謀反を起こす、といった状況なので、頼りないアニキでは家が潰れてしまう、という危機感がありますね。

この辺は、謙信のライバルとなる武田信玄の場合は、有能すぎて父親から警戒され、弟に家督を譲られそうになるという真逆の状況ですね(もっとも、弟の武田信繁がお兄ちゃんを尊敬していたおかげで、なんとか兄弟が殺し合う、織田信長・信行兄弟のようなことは避けられます)。

まあ、そんな感じで、父親の許しもあって、武将として育つ環境を与えられた謙信こと虎千代は

といった感じに育っていきます。この傾向は、この後、禅寺に修行に出されるのですが、そこでは年齢がいけば他家へ嫁へ行かされる女性に生まれたことを悔やむ「虎千代」に対し、

といったふうに、男女の性別に関係なく「越後の国を護る」ことを植え付けられていくようです。

【レビュアーから一言】

本書では、戦国時代には複数存在した「おんな城主」が、徳川幕府が定めた「武家諸法度」で初めて禁止されたという説が紹介されています。天皇家のほうでは江戸期でも女性天皇が在位していたかと思うので、これは武家だけに限った禁令であったと思われます。この思想が、明治期以降の女性天皇の禁止につながっているのかもしれません。
なぜ、おんな城主が禁止されるに至ったのかは調べてみないといけないのですが、ひょっとすると男尊女卑の思想というより、女系を認めることで、徳川の将軍家に外様にせよ、譜代にせよ他家の系統が入ってくるのを嫌ったのかもしれないな、と妄想してみるのであります。

雪花の虎(1) (ビッグコミックス)
戦国の世を、義を貫いて駆け抜けた軍神・上杉謙信。 毘沙門天の化身とされる名将...

コメント

タイトルとURLをコピーしました