安部龍太郎「信長の革命と光秀の正義」ー伝統の価値観とキリシタンが本能寺の変を呼ぶ

前作「信長はなぜ葬られたのか」で、首謀者の明智光秀の動機や、討たれたほうの織田信長がなぜ無防備な状態で京に滞在していたのか、などわからないことが多い「本能寺の変」について、その黒幕となった人物や、信長を取り巻いていた国際情勢などを明らかにした筆者が、信長がめざした理想や、それに対する明智光秀の立場、黒田官兵衛などのキリシタン大名の動静など、前著をさらに深めたのが本書『安部龍太郎「信長の革命と光秀の正義」(幻冬舎新書)』です。

前作との重複点は数々あるので、すでに前作を読んでいる人は、記憶の掘り起こしと、復習を兼ねて、ぐらいの気持ちで読んだ方がよいですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 光秀単独犯行はありえない
第二章 謎だらけの明智光秀
第三章 革命家信長の光と闇
第四章 戦国時代はグローバル時代だった
第五章 戦乱の日本を多くキリシタンネットワーク

となっていて、前作で黒幕として主張されていた公家の近衛前久がさらにクローズアップされています。本書によると彼は、五摂家筆頭の近衛家の長男に生まれ、和歌や書に秀で、古来の仕来りや前例にも明るく、乗馬や鷹狩にも一流の才能を示したばかりでなく、上杉謙信の関東管領就任をまとめたり、徳川家康にも恩を売っているという、公家側の大実力者ですね。

もともとは才能のある同士で、信長と前久はとても仲が良かったようですが、信長が武田勝頼を滅ぼしたあたりから、公家衆や、さらには朝廷も下手に見るような動きに、袂を分かったというところです。

基本、本書のスタンスは、イスパニアなどの南蛮勢力に支配されることを恐れた信長が、日本の支配体制を根っこから変えてしまおうと動くことに、自らの立場がひっくり返ってしまうことになる、寺社や朝廷、あるいは足利将軍家一統などの旧勢力が大団結した、という見解で、このために「本能寺の真相」が、覆い隠されてしまった、というところです。

しかし、ではなぜ、そういう気配を信長が察することができず、少ない手勢で京都に滞在していたのかということについて、

実際、信長ほど家臣に裏切られた人物は珍しいのではないでしょうか。
弟の信勝(信行)、若き日の柴田勝家、浅井長政、荒木村重、松永弾正――。
信長の人生は、数えきれない裏切うとの闘いだったといってもいいと思います。
その要因として、信長の主張の厳しさがあります。
頭がよすぎて、自分の考えについてこれない人間は許せない、分るやつだけ取り立てるというタイプです。しかも相手の感情に無頓着なところがありました。
自分が超合理主義者ですから、感情の機微にうといところがあるのです。

といった、信長の性向に求めているのですが、彼がそういった行動にでてしまう彼の「捨てられた幼年時代」や、当時先取的といっていい「預民思想」のあたりに言及されているのは興味深いですね。

そして、本書のキモのひとつは、本能寺の変の黒幕として前作でも挙げられていた足利将軍勢力、調停を中心とした公家勢力、そして実行者としての明智光秀に加えて、新たな対抗勢力の存在を明らかにするところです。

つまり、信長との交渉が決裂し、日本だけでなくアジアの支配権があやうくなってきたイエズス会+イスパニア勢力と、彼らと密接に結びついている「キリシタン大名」勢力の存在に言及しているところです。
そして、この「キリシタン大名」勢力の中心に、高山右近や小西行長といった「小物」ではなく、秀吉政権を支えた大物がでてくるのですが、詳細は本書のほうで。さらに、このキリシタン勢力と敵対したことが、信長が油断した理由と、死ぬ間際の「是非もなし」の言葉の真意とも結びついてくるわけですねー。

【レビュアーからひと言】

こういった壮大な「歴史秘話」はその仕掛けが大きいほど面白く読めるもので、極東の当時の小国「日本」の事件ではあるのですが、世界史の視点でみるっといろんな意味が読み込めるものですね。やはり、こうした歴史の「陰謀説」はワクワクしますね。

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