東村アキコ「雪花の虎 5〜7」ー謙信と信玄の因縁の戦い「川中島の戦」はじまる

「越後の虎」あるいは「越後の龍」と称され、「甲斐の虎」武田信玄とがっぷり四つで死闘を繰り広げ、「風雲児」織田信長を怖れさせ「軍神」でありつつも、生涯、妻を娶らず、子もなさなかった、「義」に厚い武将「上杉謙信」が実は女性であったという、驚きの設定で展開する戦国の物語である『東村アキコ「雪花の虎」』シリーズの第5弾から第7弾まで。

前巻までで、兄・晴景を隠居させて家督を継いだ景虎と、父・春信を駿河に追放して家督を奪い取った信玄の二人がそれぞれに国を富ませてきたのですが、いよいよ、国境を接する両者の激突が始まります。まだ、両雄が直に刃を交えるまでには至らないのですが、その前哨となる第一次川中島の戦が描かれます。

【あらすじと注目ポイント】

まず第5巻では、両者が激突する前の「静けさ」といった佇まいです。
家督を継いだ景虎は、地元の名産である「青苧」の栽培を大々的の進め、さらにそれを積み出すための港や橋の補修を、民間の商人や寺社の力を借りて進めていきます。

当時、越後の国は湿地が多く、けして米作には向いていないところであった上に、金を算出する佐渡もまだ景虎が支配していないので、こうした特産品によって国力を富ますあたりは、彼女の女性政治家らしい才能が発揮されるところでありますね。

そして、女性として、戦をする上での弱点となりそうなところを予め防止するために、なんと、宗謙に「夜伽」を命じるあたりは、姫武将らしいというかなんというか・・。

一方、信玄のほうも着々と、臣下をまとめ、有名な騎馬軍団を編成していっているのですが、ここで隠れたキーマンとして、武田家の「草」や「間者」たち諜報部隊を束ねる「山本勘助」が登場します。彼は足が不自由なことは有名なのですが、容貌的にもかなり特徴のある人物だったようですね。
さらに、信玄は、村上義清との戦の中で、志賀城兵の首3000を城の周囲に晒し、城を落すと立てこもっていた民衆を奴隷や遊女として売っぱらった所業が印象的です。
この信玄の諜報部隊の長・勘助が忍ばせた「草」との死闘がもとで、景虎の兄が病死するのですが、ここは本書のほうでご確認を。

そして、いよいよ、この両者が激突する「川中島の戦」がはじまります。この戦は第1次から第5次にわたる長期戦なのですが、この6巻から7巻で描かれるのは第一次川和中島の戦です。残念ながら、この第一次は、両者がそれぞれ手の内を探り合ったような戦いで直接対決はありませんので念の為。

で、この戦の直接の原因は、信玄と死闘を繰り広げていた北信濃の武将・村上義清が信玄に国を追われて後、庇護を求めてやってきたことに起因しているのですが、

このシリーズ的には、上田原の温泉で「景虎」と出会った信玄が、この美女を探して、北ヘの侵攻を始めた、といったあたりがロマンチックでいいかもしれません。さらに、この戦で「女性のためのお寺」で婦人病の薬を販売する門前町を擁する「善光寺」を自領とするために、景虎は最後まで「川中島」に拘っていた、という妄想も抱かせるところでもあります。

戦のほうは、村上義清で居城であった葛尾城を確保して、信玄と対峙するのですが、戦のときの景虎の泣き所である、月に一度の月経が訪れてしまい、にらみ合いのまま、双方が兵を納めるという展開になるのですが、騙し合いのようなやり取りで緊迫する戦の様子は原書の方でお読みくださいね。

なお、7巻の最後のほうは、舞台代わって、今の滋賀県の朽木谷へ亡命してきている足利幕府の第13代将軍・足利義藤(義輝)と彼の臣下の細川藤孝、進士源十郎藤延たちの話へと移ります。彼らは、三好衆に京都を追われてここに逃れてきた、というところです。(彼らを匿ってくれている朽木元綱は「淡海乃海」の主人公のモデルとなっている人ですね。(もっともまだ5歳ですが))。8巻以降での新展開の発端部分もお確かめを。

【レビュアーから一言】

村上義清の亡命に先立って亡命してくるのが、北条氏康に領地を追われた関東管領・上杉憲政です。室町幕府草創の頃から、関東管領として「上野」「武蔵」「伊豆」までの広大な領土を有していた武家の超「名門」だったのですが、伊豆から出て勢力を伸ばしてきた後北条家の北条氏康に攻め上げられ、旧領を追い出されての亡命です。

本シリーズでは、上杉の立場から「暴れイノシシ」と言われているのですが、北条のほうからすると、岩盤のように新しい勢力をはねのけてきた旧勢力の代表格のような存在を、やっと追い払った、といった感じだと思います。こういう上杉や村上といった旧勢力を代表する敗者から頼まれると理屈ぬきに加勢してしまうのが、景虎こと謙信の魅力でもあり、弱さと旧さでもあるのでしょう。

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