藤波匠「子どもが消えゆく国」(日経プレミアシリーズ)ー出生率向上と移住政策の嘘を見抜いておこう

出生率の減少によって我が国の人口がどんどん減っていくという危機感は、厚生労働省が毎年10月ころに統計値を発表するあたりになると話題になって、子どもを産みたくなったり、子育てをしやすい環境整備について、毎年喧しい議論がされるのが恒例のこととなっています。

特に出生率の回復した外国の例を引き合いに出しての議論が最近目立つのですが、その本当の姿を分析しつつ、ともすれば社会保障資源の世代間の奪い合いの議論になってしまう、「出生率回復と人口減」の問題について、アンチ・政府施策の立場から論述しているのが本書『藤波匠「子どもが消えゆく国」(日経プレミアシリーズ)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
第1章 出生数90万人割れの衝撃
第2章 高齢者・女性・外国人頼みの限界
第3章 地方への移住促進策政策の誤り
第4章 人口減を好機に社会を変える
第5章 生みの苦しみを受け入れる
第6章 若い世代にとってより良い社会を築くために
おわりに

となっていて、第1章・第2章で「出生率低下と他国の出生率急上昇」の仕掛けのあたりが分析され、第3章から第5章のところでは、最近の東京を除くすべての地方公共団体で第一優先施策となっている「人口増対策」「移住定住対策」の危うさを指摘しつつ、筆者なりの対応策の提示、第6章で「まとめ」的な構成となってます。

いくつか注目ポイントをあげると、まず第2章で分析されている「フランス」の出生率のV字回復の分析です。フランスは出生率をV字回復させた国として最近注目を浴びていて、子育て施策を考えるときに、フランスの政策がお手本のように言われることが多いのですが、筆者によると
フランスにおける少子化対策の導入と出生数の回復には、必ずしも明確な因果関係があるとは言い切れないと考えていて、

比較的知られていることではありますが、フランスの出生数の回復には、外国人が大きく貢献しているのです。
フランスの年間出牛数は、2010年をピークに再び減少に転じ、2018年までの8年間で7・4万人の減少となりました。
内訳を見ると、同期間、フランス人同十のカップルの子どもは9・8万人減少し、フランス人と外国人のカップルはおおむね横ばい、 一方で外国人同十のカップルの子どもは2・4万人増えています

といったデータを見ると、出生率向上という課題が、実は単なる施策だけで解決するものではなく、移民問題や外国人の受け入れという問題と大きく関わっていそうな気配が漂いますね。

そして、この人口の問題については

総人口(外国人を含む)に占める外国人の割合は、全世代平均では2・2%にすぎないものの、23~25歳に限れば7%を上回る状況にあります(図表215)。
すなわち、当該世代では、すでに人口の14人に1人が外国人であるということになります

という指摘もされていて、なにやら外国人労働者が「臨時的」な存在で、「移民は認めない」としている政府や地方公共団体のスタンスから、実際のところが大きくぶれ始めているような感じを受けますね。このへんは、単一民族国家としての日本というものの変遷や、考え方を再整理する時期にきているのかもしれません。

さらに、この人口論の基づく舌鋒が、今、地方公共団体が躍起になって進めている「移住・定住対策」に向かうと、厳しさを増してきて、

さらに言えば、国が推進する日王政策が逆に生産性の低下を促している場合もあります。
・・・わが国が現座取り組んでいる地方創生戦略では、人口の東京一極集中の抑制に取り組んでいます。地方に若い世代が定着することが善という根拠がかなりあいまいな前提にもとづいた政策が、国の二要施策に位置づけられてしまっているのです。地方創生戦略のように、生産性の高い仕事や地域に向けた自然な人口移動を阻害する可能性のある政策は、わが国の経済成長を押しとどめてしまうことが懸念されます。

であったり、

確かに、大局的には東京への人口移動が進んでいることは確かですが、各地域で見れば、実は人日流出地域の若者が向かう先は、必ずしも東京など大都市ばかりではなく、近隣の市町村であることが多いはずです。結局、東京圏に向けた人口流出を食い止めようという取り組みが、地方圏同十の移住者獲得競争をあおり、 一部の流入地域と多くの流出地域を生んでいることになるのです

とかなり「辛口」ですね。

もっとも、これらを踏まえた筆者の提示する「外需の呼び込み」であるとか「農業などの既存産業の集約を一層促進し生産性をアップさせる」といったあたりは、今回の新型コロナ禍の後どうなるかをよく見極めて作戦立てする必要があるでしょうし、農業など既存産業の集約化はかなりの痛みを伴うことは間違いないで、行政関係者も民間も腹を据えてとりかからないといけないことには間違いないようです。

【レビュアーからひと言】

筆者には「人口減が地方を強くする(日経プレミアシリーズ)」という、本書の先駆けとなる前著があって、そこでは、地方公共団体が大騒ぎで邁進した「移住定住競争」について、もっと辛口な論述がされてます。

地方自治体関係者には、ちょっと耳が痛かったり、ムカついたりといったところもあるかもしれませんが、今回の「新型コロナ」によって、「集める」ことを誘導する施策がこれからも成り立つのか意識転換が迫られている中、一読しておいて損はないと思います。

子供が消えゆく国
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