松井忠三「無印良品のPDCA」ー無印良品が「勝ち組」となった秘訣がここにある

良い品質と、品が良くシンプルなデザインで、根強いファンが多数いる「無印良品」の提供企業で、2020年度の大学生の就職の人気企業ランキングでも45位という高ランクに位置する「良品計画」の社長・会長を務め、業績が極度に低迷していた同社世界的企業にまで育て上げた筆者による「無印良品本」の一つが『松井忠三「無印良品のPDCAー一冊の手帳で常勝経営を仕組み化する!」(毎日新聞出版)』です。

本書では、筆者がビジネスを展開していくうえで、必須の手法であった「PDCA」、それを「アナログの手帳」で実現していった実例がアドバイスされています。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 アナログ手帳とPDCAの切れない関係
1章 手帳は経営のための「思考基地」
2章 変革のためのDCAP
3章 勝ち続ける仕組みはCAがつくる
4章 風土を変えるDDDD
5章 スパイラル型のPDCAで成長を促進する

となっていて本書で提案されている「仕組み」の根幹は、ビジネスの基本「PDCAを回す」ということなのだが、そのツールとして使われているのが、左側に日付と時間が記入されたウィークリー、右側がメモ欄という、なんの変哲もない「手帳」であるのが特徴的です。ただ筆者によると

手帳に毎日の貴重な時間を何に使うのかを書き込み、書かれたスケジュールをそのとおりに一つひとつ実行していけば、ほぼ確実に計悪を実行することができます。
もし実行できなかったことがあったとしても、それを再びスケジュールに組み込んで手帳に書き込めば、そこに実行の機会が生まれます。これが、Check(評価)であり、Action(改善)です。
つまり、手帳は実行をサポートするだけでなく、PDCAを合わすための強力なツール

ということのようで、当方もあれこれと「ツール」の渡り鳥をしてしまう傾向が強いのだが、ここは「手法」とそこに流れる「基本理念」のところをしっかり掴む大事さを注意されて気がしています。

そして、その基本には

これは良品計画に限ったことではありませんが、一般的に、経営者がビジョンや経営方針といった計画を考えて、経営方針発表会などで話しても、 実行してくれるのはせいぜい半分。残り半分の人は実行してくれません。  計画は、日々の業務に落とし込まなくては実行されず、日々の業務に落とし込まないとPDCAは回り出しさえしない

といった、どん底の状況から会社を立てなおした上に、多くの企業から教えを請われるところまでもってきた経験に裏打ちされていて

PDCAは、「Plan」、つまり計画から始めるのが一般的ですが、私が社長になったときは、会社の危機ともいえる状況。悠長に計画を立てる余裕などはありませんでした。とにかく、立て直すためにできることからやる。実行(Do、以下D)、あるのみです
PDCAだからといって、律義に「P」から始める必要はなく、危機的な状況のときは、まずやれることをやる、つまり「D」から始めて、D→C→A→P→D→C……と、PDCAを回せばいい

であったり

変革や改革というと、現状を全否定し、一気にすべてのやり方を大幅に変えて、魔法のように組織を一変させるイメージがありますが、私は魔法使いでありませんし、何か特別な技術やアイデアを持っているわけでもありません。ですから、 できる範囲で、確実に良くなるように地道に変えていく、それを積み重ねていくことで改革を行うしかない
PDCAにおいても、1回目の「C」「A」には、問題の本質に向き合う真剣さに欠けるところがあり、2回、3回と「C」「A」を行うことで問題の本質に気づき、その改善ができることが多々あります

といったところは、「実践者」のアドバイスとして重みがありますね。そして

「P」「D」、つまり計画と実行ができている企業は多いようですが、「C」「A」がきちんとできている企業は意外に少ないものです。実際に、他社の経営者や社員と話をしていると決められたことが実行できていないという話ばかりです。計画し、やってはみたものの、それがいったいどんな結果に結びついたのか、取り組みは不十分ではなかったかなど振り返りから改善への流れがおろそかになっているのです。

といったあたりには、耳の痛いビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。

このほかにも

ピラミッド組織でコミュニケーションのボトルネックになるのが、「五合目社員」と言われる中間管理職の存在

であったり

社風づくりは、やると決めたこと(P)をやり続けることが重要。点検シートとそのチェックという「C」も一応ありますが、実質「実行(D)」あるのみで、基本的には「DDDD」

といったところは、「PDCA]という型から入り、「型」を破っていく柔軟性の大事さを感じさせるところでもあります。

もちろん、理論編だけではなくて

会議が終わりに近づくと、手帳を開き、どの仕事をどのスキマ時間で片づけるか、仕事の優先順位と、その仕事を行うのにかかる時間を見積もって、頭の中で割り振りを決める

月曜から金曜は、分刻みでスケジュールが決まっているので、プラン通りに実行する、つまり「P」「D」に専念します、・・・土日に1週間を振り返って(C)、次の1週間の準備(A)をしていたのです。(略)「C」「A」を行ってから「P」「D」へと」進める。私の場合はPDCAというよりはCAPDといったほうが実態に合致しているかもしれません。

といった「実践テクニック」も豊富に紹介されているので、そのあたりのスキルを身に付けたい人にも役に立つと思います。

【レビュアーからひと言】

この本が書かれたきっかけは、「無印良品のマニュアル」が有名になったせいで、そのマニュアルを範にして導入すればすべて完了、という考え方をするところがでてきたせいにあるのでは、と推測しました。
筆者としては、「仏つくって魂いれず」の状況にならないよう、マニュアルが機能するための「仕組み」について説明しておかないといけない、ということであるらしい。これはすなわち、本書などでアドバイスされている「仕組み」「PDCAを回す秘訣」を丁寧に学べば、無印良品の経営のキモにふれることができるということでもあります。社内の業務改革や経営計画を担当している方には参考になる場面が多いのではないでしょうか。

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