吉川英梨「偽弾の墓 警視庁53教場」ー元プロ野球選手銃殺事件の犯人は教え子の警官?

警視庁警察学校の教官の自殺事件の捜査から、同じ警察官の自殺教唆を暴いたことが、組織の上層部の逆鱗に触れ、警視庁捜査一課の主任から警察学校の教官へ異動させられた主人公・五味京介が、警察同期の同僚・高杉助教や、五味を慕う上昇志向の強い美人刑事・瀬山綾乃の強力を得ながら、新米警察官を育てていくポリス育成ストーリー「警視庁53教場」シリーズの第2弾が本書『吉川英梨「偽弾の墓 警視庁53教場」(角川文庫)』です。

前巻の警察学校教官自殺事件の捜査の余波で、亡き妻と娘への精神的なわだかまりと妄想を指摘されて、エリートコースから外れた格好になった五味京介なのですが、警察学校に赴任しても事件のほうが追いかけてくる上に、娘の結衣へ彼女の実父で同期の「高杉」のことも打ち明けないといけない上に、慣れない「教員生活」とトラブルに追われる姿が描かれます。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 チョコレートと銃弾
第二章 イップスと覚醒剤
第三章 ボイコットと逮捕
第四章 アンカーと亡霊
第五章 アルバムと戦場
第六章 ニューナンブと不適格者
エピローグ

となっていて、まず、京介が受け持つ「40人の学生」全員を一人の退職や脱落も出さず卒業させる、と宣言するところから今巻は始まります。

しかし、元プロ野球選手・相川幸一、世界中を放浪した後に警察へ入ったバイリンギャル・早田公佳、元コンビニの敏腕店長など、様々な経歴の持ち主や、同僚の高杉にあからさまな好意を寄せてくる女性警察官・木崎日菜、そして、五味の教育方針を「甘すぎる」と反感をもつ古手のスパルタ教官・長田など、多くのトラブルの発生が予測される幕開けです。

で、事件のほうは、有望なプロ野球選手であったのだが、今、警察学校に入校している「相川」が投げたデッドボールが原因の怪我がもとで成績が振るわなくなって引退した「入江」という男が、拳銃で撃たれて死ぬ、という事件。その頃、「相川」のもとには、有望なプロ選手をダメにした男が警察の社会人野球で復活を果たそうとしている、ということでTV局のクルーが張り付いていたのですが。、その事件との関連性を探るための取材や、五味と対立するベテランの長田教官の担当クラスの生徒の屋上からの飛び降り未遂もあって、騒がしい状況となるのですが、この銃撃に使われた「拳銃」が、警察官が所持している「ニューナンブ」では、という疑いがで、さらには「相川」に入江殺人の容疑がかけられたことによって、彼をマスコミから匿う櫃もでてきて、と言った感じで学校中を巻き込んだ騒動となってきます。

さらには、五味の担当クラスの「木崎」の居室のごみ箱から覚せい剤の入った薬包も発見されたり、相川教官が担当している新人警官たちからボイコットされ謹慎処分となり、そのクラス全員を追加で、五味・高杉のペアが受け持つことになったり、という出来事もあり、前巻に劣らずテンポよく物語が展開していきます。

もちろん、女性に好かれる「高杉助教」のモテぶりは健在なうえに、五味と綾乃の仲はじれったいほど進展しなくて、といった感じも続いています。

そして今巻の読みどころは、五味が受け持つクラス二つが取り組む「模擬捜査」です。五味の担当事件で迷宮入りとなった女性変死事件を題材に、それぞれが「帳場」をたてての聞き込みや、犯人推理の様子がワクワクすること間違いなしです。 

【レビュアーからひと言】

ネタバレを少々すると、担当する40人全員を退職や脱落なしに卒業させるという「五味」の宣言は、木崎と早田、二人の女性警官の脱落で残念ながら叶わないこととなります。この二人が脱落した理由も、それぞれの過去のトラウマに絡んでいて泣かせどころであります。加えて、五味の義理の娘・結衣がとうとう、実の父矢が誰なのかを知るのですが、知った時の義理の父娘のやりとりがまたな涙を誘うので、後半部分まで気を抜いてはいけませんな。

偽弾の墓 警視庁53教場 (角川文庫)
迫真のミステリ×重厚な人間ドラマ。話題沸騰の警察学校小説!! 警察学校の教官・五味のクラス“53教場”には、個性豊かな学生が集う。元プロ野球選手、ガンマニア、教官に恋い焦がれる女性――各々の事情を抱えながら警察官を志す学生を相手に、五味は充...

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