新米スポーツ雑誌記者の奮闘を応援しようー大崎梢「彼方のゴールド」

大崎梢

駅ビルで働くベテラン書店員・杏子さんと推理力抜群ながら不器用な多絵ちゃんという二人の書店員の活躍する「成風堂」シリーズや出版社の新米営業社員・井辻智紀が悪戦苦闘する「明林書房」シリーズといった「本」「雑誌」に関わる職業の人の周囲でおこる日常の謎やトラブルの解決を描いたミステリーで定評のある筆者のもう一つの「お仕事」系ミステリー「千石社」シリーズの第4弾が『大崎梢「彼方のゴールド」(文藝春秋)』です。
シリーズ前作では、ローティーン向けファッション雑誌、暴露系の週刊誌、老舗感漂う文芸誌が舞台であったのですが、今巻では総合スポーツ雑誌が舞台になります。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 勝利の方程式
第二章 水底の星
第三章 スタート・ライン
第四章 キセキの一枚
第五章 高みを目指す
第六章 速く、強く、熱く

となっていて、まずは、千石社の営業部に所属していた入社二年目の本作の主人公「目黒明日香」(ニックネームは「めぐちゃん」)が、初めての人事異動で総合スポーツ雑誌「Gold」勤務となるところからスタート。彼女は、子供の頃にスイミングスクールに数年間通っていたぐらいで、ほとんどスポーツのほうには興味がない、という設定で、このあたりは、この「千石社」シリーズに共通するパターンです。

そんな彼女の、例えば、プロ野球選手のインタビューで、先発からリリーフに回っている若手投手の「しがみつくものではなく、踏むものでしたね、マウンドって」といった言葉から、新しい仕事へ飛び込んで行く元気をもらうなど、野球、陸上、バスケットボール、サッカー、水泳と様々なスポーツの選手やコーチ、あるいは同じ雑誌社の編集者やカメラマン、スポーツライターたちとの関わりを通じて、雑誌編集者として成長していく姿が描かれています。

話の展開の中心になるのは、彼女が小学生の時に通っていたスイミングスクールの思い出から始まる話です。彼女自身は、お稽古ごと感覚で通っていたようですが、オリンピックを目指しながら怪我で大会を断念した同級生や、水泳一家に生まれて英才教育を受けながら挫折していく同級生の姿を通して、スポーツで高みを目指していくことの難しさや切なさが最初のほうでは描かれるのですが、後半に至って、そこのところがガラリと変わっていくところに、心地よいカタルシスを味わうことができます。

このほか、本巻の舞台が総合スポーツ雑誌であるせいか、なにかの大会での優勝劇とか敗北劇とかドラマチックなものはないのですが、スキャンダルをすっぱ抜かれた陸上選手と彼を長く取材してきたフリーのスポーツライターとの関係修復を主人公がとりもつ話であるとか、かつて雑誌のトップページを飾る予定だったサッカー選手と当時の編集者との和解であったりと、心に染み込んでくる話が展開されています。

【レビュアーから一言】

本書の出版が2019年で新型コロナウィルスの感染拡大で、2020年の東京オリンピックにむけて期待あふれる描写が所々見えるのが、少し「寂しい」ところではあるのですが、挫折を経験しつつも、それを乗り越えて再び高みを挑戦していく姿であったり、挫折後もスポーツに関わっていく人たちの姿がメインのところ。
スポーツ好きもそうでない人も楽しめる「スポーツ系」コージーミステリーという味わいでしょうか。

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