beforeコロナの「辺境旅行」に思いを馳せるー下川裕治「10万円でシルクロード10日間」

下川裕治

新型コロナウィルスの感染拡大で大きな影響をうけた業界の一つが交通業界と観光業界で、一時期、日本の経済を押し上げる決め手のような扱いをうけた、インバウンドもすっかり閑古鳥は鳴いていてで、それとあわせてアウトバウンドのほうも下火になっています。
本書は中国への旅も一般化し、さらには中央アジア諸国がロシアからの独立後、ビザの解禁など旅行の規制を緩やかにし始めた頃からの筆者の経験に基づく「中央アジア」の旅の魅力とお役立ち情報をまとめたのが本書『下川裕治「10万円でシルクロード10日間」(KADOKAWA)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
西安から蘭州へ
トルファンからウルムチへ
ウルムチからアルマトイへ
アルマトイからビシュケクへ
ビシュケクからタシケントへ
タシケントからサマルカンドへ
サマルカンドからブハラへ
その先のシルクロード
旅を終えて

となっていて、今回本書で取り上げられている旅は、中国の中央部から中央アジアを横断し、ウズベキスタンまで達する、ユーラシア大陸の中央部の2/3もの距離に達する、古の「天山北路」のシルクロードの旅です

旅本としては、特異な経験や旅行中の事件がレポートされていることはなく、オーソドクスなつくりで、筆者や旅のクルーが途中撮影した市場の人々の姿であったり、移動する列車の乗務員や乗客の笑顔であったり、観光地ではなく人々の生活する一コマが切り取られています。

このあたりが下川裕治さんの著作の特徴で、本書の場合も、まるで自分が現在のシルクロードの町を歩いている感覚が味合うことができますね。

まあ、実際に地理不案内な外国の駅前に夜中に放り出され、そこから宿泊場所をさがしたり(あえてホテルと書いてません)、タクシーの運転手と料金交渉するといったことはかなりのストレスと気力と度胸が必要であることは間違いなく、本書あたりで「疑似体験」しておくのが実際に旅をするにせよしないにせよ、おすすめであるのは間違いないところでしょう。

さらに、こうした旅本の魅力は、世情であるとか治安であるとか、個人で旅行するにはちょっと危険な匂いのするところへの旅を疑似体験できるところで、それは西安での

すでに日が暮れ、夕食をとりにホテルの前の広い道を渡ると、廃材を集めて建てた食堂がぎっしり並ぶ一角があった。ビルの間の道の中央に勝手に家を建ててしまったような雰囲気すら伝わってくる。
昔からこういう街になぜかひかれてしまう。
(略)
この一帯は立ち退きを迫られているようだった、中国ではそこかしこで起きていることだった。寒村から出稼ぎに来て、そのまま居ついた人たちを強制的に帰還させようとしている、
(略)
戻る村は、ほとんどの人が出稼ぎに出て、廃村になり、学校もなくなったところも多いという、そこへ帰らなくてはならない(P32)

であるとか、ウルムチでの

その中で息をひそめるように暮らすウイグル人だが、笑顔は失っていなかった。バザールに入り、シルクロードらしいクルミや干しブドウが並ぶ店のおじさんは、人懐っこい笑みを作る。果物屋のおばさんも微笑みかけてくる、
つらい時代でも、笑顔を忘れないという遺伝子。シルクロードは、時代の権力に常に晒されてきた。その中を生き抜いてきた彼らの処世術こそ。シルクロードそのものにも思えるのだ。(P45)

といったところには、表で声高に語られることの少ない外国の国内問題を垣間見ることができますね。
もちろん、こういうキナ臭い話だけではなく、蘭州の廃材食堂での羊肉料理や名物の蘭州ラーメンであるとか

キルギスの羊の放牧と羊肉料理や

イスラム教徒向けのカップ麺

であるとか、「旅」の大きな魅力である「食」のところもきちんと描かれているので安心してくださいね。

【レビュアーから一言】

2019年の出版でウイグルの弾圧や香港の一国二制度をめぐる騒乱の兆しはあったものの、新型コロナウィルスの蔓延より以前の状況が描かれていて世界的な観光ブームの中での観光地やバザールの今を切り取ったものも多く、今となってはビフォー・コロナの大事な記録といってもいいですね。
未だ自由に旅行ができる状態は訪れていないのですが、本書のトルファンのところで語られる

僕はいつも、硬臥車両の窓から乾燥した風景を眺めている。オアシス都市を結ぶ道筋というと聞こえはいいが、そのほとんどは岩屋砂だけの単調な世界だ。
(略)
オアシスに入ったのだ、・・・乗客たちはベッドから身を起こし、ホームに降りる準備を始める。
おそらく2000年前も、オアシスにたどり着いた男たちは、「今日もよく歩いた」と水を飲み、食事に手をのばしただろう。
オアシスをつなぐ旅・・・・・。それはいまも変わらない

といった今は行けない「異国」に思いをはせながら、せめて「旅本」で雰囲気を味わってはいかがでしょうか。

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