前著「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」で、起業や飲食店の独立開業を夢見るサラリーマンへ警告ととるべき新しい道を指し示し、さらには後継者不足で多数の黒字廃業が予測される日本の中小企業の振興策を提示した筆者が、さらにこの概念を抽象化して、「投資家」でも「起業家」でもない、あたらしい道「資本家」という概念を開設しているのが本書『三戸政和「資本家マインドセット」(NewsPicks)』です。
今のサラリーマンとしての生き方では将来どうなるか不安を抱えているのだが、起業や独立開業は怖いし、と思っている人への「新しい道」の提案書です。
【構成と注目ポイント】
構成は
第1章 資本家とは何か?
第2章 サラリーマンでは金持ちになれない
第3章 サラリーマンは絶滅する
第4章 資本家への道ー私の場合
第5章 会社を買って「資本家」になる
第6章 資本家の仕事3原則
第7章 資本家マインドセット10カ条
となっていて、第1章が「資本家」というものの解説などの基礎、第2章・第3章が人や組織に雇われる「サラリーマン」の将来性についての筆者の考察、第4章が筆者の経験、第5章~第7章が、「資本家」として生きるための具体的な方法論といった形です。
◇「経営者」でも「投資家」でもない「資本家」とは?◇
本書でまずおさえておかないといけないのは「資本家」という概念でしょう。前著「300万円で会社を買いなさい」を読んだ印象では、当方的には「経営者」として後継者のいない会社を引き継いで、今までの経歴やノウハウを生かして「経営」するという印象を持っていたのですが
自分の手腕で会社の事業を成長させ、そこから利益を得るが、実際に会社の現場での指揮はとらない。
株式などに投資をして、配当やキャピタルゲインを得る立場になるだけではない
持っている財産を運用しているだけではなく、実際の会社の事業に関与する
ということで、当方的には思考のテーブルを一旦まっさらにする必要がありました。「経営者」になるのは、一般的な「」ビジネスパーソン」の出世の先にもあるのですが、どうやら筆者の奨める「資本家」というのは、ここと一線を画しておいたほうがいいですね。当方的には、「心理的独立性」が全く違うのかも、といった印象を受けてます。
このあたりは、第2章、第3章あたりで読者それぞれが読みこなしていく必要がありますね。
◇「起業家」との違い◇
筆者の提案する資本家の仕事は
「お金を生む仕組み」をつくるのが資本家の仕事
仕組みの基本は「お金と人に動いてもらう」「バランスシートで儲ける」「ポートフォリオを組む」の3原則
といったところに特徴があるとされていて、「起業家」とも混同される「資本家」との違いが明確になります。当方の感覚的には、事業を自ら発想して作り上げていく「こだわり」的なところが大きく違うように思います。製造業的・職人的発想についなってしまう日本の一般的なビジネスパーソンはここを注意しておいたほうがいいですね。
◇資本家としての仕事のポイント◇
仕組みをつくったあとに資本家に必要になるのは
・人に任せるメンタリティ。
・よほどのトラブルが発生しないかぎり、自分は現場に出ていかない。いや、できることならトラブルが起きても現場に任せる「丸投げ力」が必要なのだ
「丸投げ」すると決めたら任せた相手に100点満点を期待しない。90点や80点でもハードルが高い。「60点取ってくれれOK」ぐらいに考え中れば、丸投げはできない
とされています。このへんは通常のビジネス現場の「人に任す」というシチュエーションの場合に大事なことですね。「丸投げ」というとイメージは悪いのですが、自律的に動く仕組みを事前につくることも「丸投げ力」の一つと考えれば腑に落ちるのではないでしょうか。さらに
仕組みをうまく回すうえでもう一つ重要なのが組織内で情報共有だ。先ほどのトラブルの善後策をみんなで考えるときなど、オープンな場で話し合いを進め、議論の経過を含めて共有しないと、スムーズにことが運ばない
ということをみると、情報のオープン化というのは、組織作りの基礎中の基礎であることがわかります。
◇資本家のマインドセットを活かす◇
第7章のところで「資本家のマインドセット」として
1.「自分の時間」だけで生きる
2.始動前のアイドリングをなくす
3.スケジュールを「他人の時間」で埋めない
4.そのスーツとネクタイは本当に必要か?
5.その名刺は本当に必要か?
6.いつまで「定時出社」を続けるのか?
7.インパクトの大きいお金の使い方をする
8.好きなこと・やりたいことを仕事にする
9.「遊び偏差値リスト」をつくる
10.声は大きく!
とあげられているのですが、「資本家」にまだなっていない、フツーのビジネスパーソンでも仕事をやっていく上では参考になるところが多いと思います。例えば、
仕事そのものを効率化するのは当然だが、仕事にかかる前の「アイドリング」をなくすことも大事だ。 たとえば私は ほとんどの仕事をアイフォンで処理している。ノートパソコンよりもアイドリングの時間が圧倒的に短くて済むから
とか
人の印象に残る ということは、ビジネスをしていく上では重要な要素だ。何か仕事をお願いしようと考えたときに、 最初に思い出してもらえる人 になっておけば、仕事を手に入れる確度が上がる
といったところは、かなり応用可能ですし。第6章の章末の
資本家マインドセット的には、「自分の時間」に余白をつくり、次なる一手を生み出していかなければいけない。自分が手を動かしていたら、永遠に「かけ算」の人生は歩めない。
といったところは日々の仕事の改善にすぐにでも活かせる思考法ではないでしょうか。
【レビュアーからひと言】
本書の第7章の冒頭には
思考が変われば行動が変わる、という言葉がある。「資本家だったら、こんなときどう考えるだろう」という問題意識を持つだけでも、仕事のパフォーマンスは大きく変わってくる
また、逆に、仕事の日比野スタイルを資本家的に返る、つなわち行動を変えることで、「将来のことは不安だけれど、現状を変える方がもっと不安」という閉塞した気持ちから解放され、新しい世界が見えてくるはずだ。
と書かれています。企業社会を取り巻く情勢や個人個人の働き方も、今、新型コロナウィルスの感染症拡大で大きく変化するとともに、その変化の加速度が一挙に増加したように思います。自らの自衛の意味も込めて「資本家的」な思考法や生き方について情報収集しておくのが大事ですね。
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