”妄想”と”成功”を「脳科学」すると面白くなるー中野信子「脳はどこまでコントロールできるか」

脳科学

わかってるようで一番わからないのが「自分自身」というもので、「なぜ、あんなことしたのかな」と衝動的な行動を後悔したり、「理屈ではわかっているんだが、どうしても好きになれない」とか自分で自分の意識をコントロールできない経験は誰しもあると思います。さらに「あの時、こうしていたら成功できたのに」と思うこともしばしばある人も多いのでは。
そんな自分の思い通りにならない行動の元となっている自分の「脳」が生み出す妄想とそれを「成功」体験へと結びつけるコツを「脳科学」の立場からアドバイスしてくれるのが本書『中野信子「脳はどこまでコントロールできるか」(ベスト新書)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめにー脳を使いこなせば人生が変わる
第1章 成功者は妄想するー夢を見続ける効用
第2章 成功する人は脳に騙されないー錯覚のメカニズム
第3章 成功する人が使っている心理効果ー脳は勝手に妄想をつくりだす
第4章 男女で違う脳の働きー刺激を求める男性脳。不安を感じやすい女性脳
おわりにー脳はどこまでコントロールできるか?

となっていて、第1章から第3章までが「脳」の様々な性能とその制御法と「成功」との関係性、第4章が脳の機能の男女別の違い、となってます。

◇「脳科学」はビジネスの成功に役立つ?◇

まず本書の最初のほうで、マクドナルドを世界的ハンバーガーチェーンに育てあげたレイ・クロップや、「ディズニー」の創始者ウォルト・ディズニーが、脳の「妄想力」によって成功していくエピソードが語られています。そこで

身なりを整え、適切な自己イメージを作り上げていくことが、中身も同時につくりあげていくことにつながるのだ、という「妄想の技術」の大切なポイントを経験の中からつかんでいたのでしょう。

といったあたりで「思い込むこと」「妄想すること」と成功との関連がまず言われているのですが、

自己イメージに関する固定観念が成績を左右してしまう、という衝撃的な結果が明らかになったわけですが、実は、自己イメージには直接関係のない事実を見ても、それが行動に反映されてしまうことがあるのです

という話とともに、若者が高齢者の固定観念をイメージした後では歩く速度が遅くなる、とおか女生徒に女性数学者の話を聞かせると数学の成績があがるといった実例が紹介されていて、脳が作り出す「イメージ」「妄想」が私たちの行動へ及ぼす影響の大きさを教えてくれています。
さらに「ミラーニューロン」の働きによる

成功者の考え方や生き方を目の当たりにすると。それが勝手に脳にコピーされる。そうすると、成功者の事故イメージが、自分の自己イメージと重なって、自然に行動や結果に反映されていくのです。

といったあたりでは、昔からよく言う「お手本」「ロールモデル」の大事さを脳科学の視点で証明していますね。

ちなみに本書によると『「実力のある人がリーダーになる」のではなく、「確信のある人がリーダーになる」ということがわかった」』ということで、「リーダー論」の裏話みたいなものもでてきます。このへんを読むと支持率の高かった安倍政権が新型コロナの感染拡大の中でみるみる支持率を落としていった理由が推理できるかもしれません。

◇「脳」の妄想で私たちは動いている◇

こういうところだけ読むと、いわゆる「成功の秘訣本」なのね、と思ってしまうかもしれませんが、本書の著者がそんな単純な展開に満足しているはずもなく、

キャバクラを選ぶということは、言語による快感を求めているということ。慣れているお姉さんは、お客さんに「社会的報酬」を与えることが上手なんですね。男性は、彼女たちが与えてくれる疑似的な「社会的報酬」を買いに、キャバクラに行くのです。

といった話や

これがゲシュタルト知覚です。
ゲシュタルトというのは、ドイツ語で全体性を持ったまとまりのある構造のことを言います。私たちは、ものごとを構成する要素を近くして、それを意識手に構成し直してしてように思っていますが、本当は、近くそのものが、ゲシュタルト的なのです。
要するに、「私たちが見ているものは、私たちの脳が見たいもの」で、かってに脳が妄想したものを、私たちは現実だと思っているのです。

というところからは、私たちが自由意志で選択していると思っていることが、実は脳の「性向」や「妄想」によって導かれていることが明らかにされるので、意外に脳科学で「商売」成功の秘訣がつかめるかもしれません。

このほか、嫌いな人物を追い詰める「ガスライティング」の手法とか、人気を操作する「バンドワゴン効果」など興味深い心理操作の話もでてきます。誰かを嵌める方法として使うのは厳禁ですが、覚えておくと誰かが自分をコントロールしようとしている時の防衛策として有効かと思います。

◇男女の違いは「脳」の構造から◇

さらに、「男女の違い」も脳科学的なところから分析するとかなり、「生理学」的、「生物学」的なことになるようです。例えば

女性は男性の2倍もうつになる人が多いと前述しましたが、調査によっては3倍と言う統計もあります。
うつ病の原因を心理的、社会的な要因から分析している理論もあるのですが、やはり見逃してははならない事実は、男性と女性では、脳が生理学的に違っているということです。
たとえば、セロトニンの合成速度です。

であったり

男性と女性で、脳が生理学的に異なっているもうひとつの例として、「ドーパミンの放出量の違い」があげられます。ドーパミンの量の違いによって何が違ってくるかというと、中毒に陥る可能性、つまりハマりやすさが違ってくるのです
しばしば、女性は男性よりも現実的、などと言われるのはこのためでしょう。

あるいは

ただし、なかにはそうでない女性もいます。
モノアミン酸化酵素(MAO)がもともと少ない女性は、不安感を抱くことがあまりありません。モノアミン酸化酵素というのは脳内のセロトニンなどを分解する酵素で、この働きの良し悪しでセロトニンの働き方が影響を受けます。
さらにモノアミン酸化酵素が少ないという遺伝的素質のあるjy女性では、実際に幸福感が高くなるという調査結果もあります。

といったところを読むと、今まで「男性らしさ」「女性らしさ」といったものを精神的に理解をしていたものが、突然、「科学」の世界になってしまうので面喰う人も出てくるかもしれません。ただ、男女の機会均等の話も哲学的なファッとした議論ではなく、こうした生物学的な差異を踏まえた議論が今後必要な気がしますね。

【レビュアーからひと言】

年令を重ねてしまうと、物覚えも悪くなるし、新しい知識は入ってこず、頭が固くなりばかリ、といった印象を多くの人が持っています。しかし、本書によると

大人の脳の中では新しく神経細胞が生まれることはないと、神経科学者たちはずっと信じてきたのですが、1997年、米国のフレッド・ゲージにより、成体の海馬でも日常的に神経新生が起きていることが発見されました

ということで、「年齢を重ねても、死ぬまで、新しく神経細胞は生まれ続け、神経回路は変化し続ける」とされています。さらに、妄想することによって、「運動をつかさどる部分、脳の運動野は「動く」とイメージするだけで活性化することが知られています。」ということのよう。どうやら、歳をとってもボケずに生きる秘訣は「妄想する」ことにあるようです。

Bitly

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