警察学校模範生の「裏の顔」を暴けー吉川英梨「正義の翼」

吉川英梨

警視庁の警察学校へ元本庁捜査一課の敏腕刑事から異動してきた教官「五味京介」をメインキャストにして、彼が同期生で亡妻の元恋人・高杉哲也、五味の現恋人でツンデレ系で捜査一辺倒の美人刑事の瀬山綾乃とともに、「捜査権のない警察官」として捜査をしつつ、警察官の卵を育てていく「警視庁53教場シリーズ」の第四弾が本書『吉川英梨「正義の翼 警視庁53教場」(角川文庫)』です。

第二弾「偽弾の墓」、第三弾「聖母の共犯者」で、警察の威信を揺るがす重大事件を解決し、本庁の捜査一課への復帰が目前となっている「五味京介」が今巻で出くわすのは、交番警官の刺殺事件とそれをきっかけに手繰り寄せられてくる警察学校と警察の上層部を巻き込んだ事件なのですが、彼の前で教え子の警官が、拳銃を発砲するという衝撃的なシーンから始まります。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 入校
第二章 乳房
第三章 この道
第四章 恥ずかしい私
第五章 玉と石
エピローグ

となっていて、前巻では、第二弾での教え子の拳銃横流しの責任をとって、担当の教場をもたない助教の役目をしていた「五味京介」なのですが、ベテラン教官「長田」が長期療養に入ったため、担当のクラスを持つ正教官に復帰しするとともに、本庁への復帰も間近く、と一見順風満帆の気配のところへ、根深い事件の陰が忍び寄ってきます。

◇交番の模範警官刺殺事件の犯人を追え◇

第一の事件は、人当たりがよくで地域の人にも親しまれている交番勤めの警察官が刺殺され、拳銃が奪われるという事件がおきます。さらに、その警察官の定年祝を届けにきた、五味の教え子の警官が巻き添えになり大怪我を負わされるというおまけ付きです。

犯人と思われるのは、その地域に出没している警察官の服装をした「偽・警官」で、その正体を突き止めるため、綾乃が聞き込みを続けるうち、殺された警察官の良くない評判や、彼が夜勤のとき交番にある監視カメラの電源を切っていたということが明らかになってきます。

この警官の葬儀は警察葬とされることとなり、彼を顕彰する碑の製造もすすむうち、彼の意外な性癖と隠してきた犯行も浮かび上がってきて・・・という筋立てです。実は、この第一の事件が、今巻のもう一つの事件となる、後述の「深川」の正体のヒントにもなっているので、よく注意しておきましょう。

◇模範的なクラスリーダーの正体は?◇

今回「五味」の担当するクラスに、有名大学出身の国家公安委員の息子・深川が入学してくるのですが、彼が第二の事件の主役です。こうした場合、彼は親の威光をかさに着ている不良息子、というのがよくある設定なのですが、今巻の場合、イケメンの上に、よく気が利くという優等生で、落ちこぼれそうな同期生をカバーしたり、「場長」としてクラスをまとめたり、と模範的な学生です。

しかし、交番警官刺殺事件のときの無断外出が判明したあたりから、彼が抱える「トラウマ」が浮かび上がってきます。元裁判官で国家考案委員をしている父大家との間に何か「トラウマ」を抱えていて、それが第二の事件、本書の冒頭にでてくる発砲事件の原因ともなっています。
彼はその育ちの良さとイケメンから、同期生の婦人警官から好意を寄せられ、ストーカー的につきまとわれた末に、彼女を妊娠させてしまうのですが、その真相は実は逆で・・・、といった展開です。

優等生でソツがなく、しかも面倒見もよい模範的な生徒として描かれている「深川」の化けの皮がだんだんと剥がれ落ちていくところは、かなりの戦慄ですね。最後のほうの国家公安委員をしている深川の父親や、捜査一課長や警察学校長たちの警察官僚のもみ消し工作への読者のイライラが募るところでの、五味と高杉の豪腕な解決と、教え子たちのアシストはちょっと溜飲が下がるところです。

【レビュアーから一言】

ネタバレをすると、今巻で事件を解決し、その手柄で本庁への復帰する「五味」という結末を予想していたのですが、今回は警察学校残留です。しかも学校内に次のトラブルのもとを抱え込んでの留任なので、次の話ではこのあたりが火種になっていくのでしょうか。
ただ、綾乃との関係のほうは、彼女の厳格な父親への「結婚の挨拶」でのトラブルを乗り越え、なんとかなっていきそうなのでここらは楽しみにしておきましょう。

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