北欧の叡智をちょっと参考にしようかー「フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか 」

新型コロナウィルス感染下で、否応なしに働き方や生活スタイルの変更が迫られてしまい、外へ出ることが極端に制限される中で、ノルウェーやフィンランドなどの北欧の「暮らし方」に再び注目が集まっています。
それは働き方だけではなく、暮らし方全体に及んでいるのですが、一方でそれを総合的に提示してくれるものがなかなかないのも事実です。本書はフィンランドに留学した経験をもち、フィンランド系企業を経て、現在はフィンランド大使館に勤務する筆者が、フィンランドのライフスタイルや考え方について著したのが本書『堀内都喜子「フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか 」(ポプラ新書)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 フィンランドではなぜ幸福度1位なのか
第2章 フィンランドの効率のいい働き方
第3章 フィンランドの心地いい働き方
第4章 フィンランドの上手な休み方
第5章 フィンランドのシンプルな考え方
第6章 フィンランドの貪欲な学び方

となっていて、過去を振り変えると、フィンランドに注目が集まるのは、同じ筆者が2008年頃に「フィンランド豊かさのメソッド」でフィンランドの教育の優秀さであるとか、当時ノキアが携帯電話の世界でブイブイ言わせていたと思うのでその隆盛の秘密とかが焦点であったように思います。

今回はそこから発展させて、働き方・暮らしについての考え方や学び方といった「暮らし」全般への論評へと進んでいる感じなのだが、その根っこのところには、「働き方改革」という掛け声は大きかったがなかなか進まなかった反省やコロナウィルスの感染拡大による生活の大変化については執筆時期がそれ以前なので、読者のほうでそこは補う必要がありそうです。

まず注目したのは、

日本とフインランドの効率をめぐる仕事の進め方で違いを感じるのは、日本のプロジエクトでは細かな部分を詰めて計画をきっちり立ててから進める傾向があるが、フィンランドは逆で大枠から考えて、徐々に細かいところを詰めていく。だからあまりきっちりとした計画は立てず、その時その時に計画を修正していく。
日本はある程度同まるとその後はスムーズにいきやすいが、柔軟性に欠ける場合はある。フィンランドのやり方だと、すぐに着手し、トライ&エラーを繰り返しながら進めていく感じだ。

というところで、リアル対面の仕事スタイルが制限されたり、少なくなっていくことが想定され、権限委任が必須となる状況下で、フィンランド型の動かしながらビジネスを進めていく方法はもっと取り入れられるべきなんでしょう。

ただ、フィンランドのフラットなビジネス環境は、どうしても過去の文化に影響されるところが大きいので、単純にそれがいいから取り入れようというわけにはならない気はいたしますね。

次に注目すべきは休み方。当然、フィンランドでも、長期の国内外の旅行というのが一番多いらしいのだが、それに劣らず多いのが

フィンランドらしい夏休みは、コテージに行くことだ。
(略)
コテージでサウナに入り、自然や静かな時を楽しむ。
コテージの中には、電気や水の通った普通の家のように豪幸なところもあるが、そういったものが一切ないところも少なくない。

ということで、日本でもアウトドアブームが再燃しているのだが、これからの生活様式はより「個」にシフトするであろうから、こうした「場」を提供するビジネスや「時間をつぶす余暇の過ごし方」といったものがより求められるようになる気がしますね。そのへんで、余暇ビジネスを考えている人は、フィンランドの家まで建ててしまうDIYであるとか、リノベーションの様子をおさえておいたほうがいいかもしれません。
また、「農」に携わるのが今世界の若者の中で流行し始めているようなので、フィンランド流の自然に親しむ暮らしをもう少し研究しておいたほうがよいかもしれません。

そして、本書で新しい注目点といえるのは「シス」というもの。ひところ、北欧といえば、ノルウェーの「ヒュッゲ」(心地いい時間・空間)をいかに「つくるかが生産性を高め、充実感のある暮らしを実現するマジックワードのように言われていたのだが、今は、フィンランド語で「困難に耐えうる力」「努力してあきらめずにやり遂げる力」「不屈の精神」といったことを意味する「シス」が注目ワードであるらしいのです。
意味合いを比較すると一気に「戦闘モード」が高まっているわけですが、ここらは新型コロナによる経済悪化とか先行きの見えなさが影響しているのかもしれませんね。

【レビュアーから一言】

よくある「出羽守本」では、お手本にする国をベタベタに褒めちぎることが多いのですが、本書の場合、フィンランドでも「ハラスメント」はなくなっていないことであるとか、失業率は意外に高く、また日本に比べて簡単にクビを切れる社会なので、新卒・未経験者の職を得る難しさとかもキチンとレポートされているのは良心的と思います。
それぞれの文化の成長過程も歴史、民族性の違いはあるので、ある国の事例をそのまま取り込め、というアドバイス本には反発を覚えるのですが、本書はそういう押しつけがましさが薄いので抵抗なく読めると思います。

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