最澄と空海は闇から抜け出すが、二人の間には深い溝があるーおかざき真里『「阿・吽」2・3』

阿・吽

平安時代の初期、日本の思想界に相次いで出現し、日本人の思考に大きな影響を与えるとともに、世俗の権力へも大きな権勢をふるった比叡山や高野山の基礎を築いた。「最澄」と「空海」、二人の天才を描く『おかざき真理「阿・吽」』シリーズの第2弾と第3弾。

シリーズ最初の前巻では、母親から「僧」としての立身出世の期待を受けながらも、欲に溺れた宗教界に愛想をつかし、寺を出て山中での修行生活に入った最澄と、生まれながらの知識欲に突き動かされ、官僚として出世する第一段階である「大学」を退学し、私度僧として出発した空海が描かれていたのですが、第2巻と第3巻では、山中に入って、入門してくる弟子たちを集めて僧坊を開いていく最澄と、彼を朝廷へと引き上げた桓武帝との出会い、そして土佐でたった一人の荒行により新境地に至る空海が描かれます。

【構成と注目ポイント】

第2巻の構成は

六話 灯
七話 散花天女
八話 慈雨
九話 薬師如来
十話 桓武
十一話 邂逅

となっていて、まずは山中に入った最澄のもとへ私度僧たちが集まり始めているのですが、厳しい修行に耐えかねて、一人の僧が宿坊を脱出するところから始まります。当時、国の認める「官僧」となれば、食い物には困らない特権階級ですので、身分の高い僧侶のもとには食い詰めた者たちが集まってきているんですね。

こうした者たちに対して、最澄は身元を確かめることもなく弟子入りを認め、さらには同じ志をもつ者として扱うのですが、「全世界を救う」という志の高さと意志の強さや学識の深さと賢さの面ではるかに弟子たちを凌駕していて、弟子たちフツーの人とかけ離れている様子が描かれています。

物語のほうは、誰でも受け入れる最澄の姿勢が災いし、麓から盗みと殺しをしてきた男が弟子として、僧坊の中に入り込んできます。この男は多くの食料を手に入れてくるので皆から重宝されるのですが、怪我をしている同輩を山中に放り出せばよいのではないかと言ったり、とても「人を救う」僧侶とも思えない様子を表に出しています。

そして、この男に家族を殺された村人が復讐にやってくると、この男は突然豹変し、殺人鬼としての本性をむき出しにします。直接的には最澄や弟子たちを惨殺しようとする暴力行為なのですが、実は、自分の生命を犠牲にしてまで、その弟子の生命を救う勝ちがあるのかを問いかけるものです。

最澄が「皆を救う」という自らの信条を改めて試されるのですが、この危機をいかに乗り越えて、比叡山が大宗教団体へと発展するかは本書のほうでどうぞ。

ここで、話のほうは「朝廷」へと移ります。ときの天皇「桓武帝」は、奈良から山城国の長岡京への遷都の頃です。桓武帝はもともと父親の白壁王も先行きが期待できなかったのと、彼自身も母親が渡来人系の上、身分が低かったので、役人として身を立てることが想定されていて、実際に大学頭とか侍従の役目についてますね。これが数々の幸運にも助けられて皇位についたため、市井の状況にも通じ、宮中の権力争いもじっくり見てきています。そのため、自分の思うような政治をするため、様々な貴族・豪族の既得権に縛られ、寺社が権力中枢に根を張っている「奈良の都」を捨ててしまおうと思ったのは無理もないですね。

しかし、この長岡京の地は縁起が悪かったのか、遷都を仕切っていた藤原種継が暗殺され、桓武帝の弟・早良親王がその犯人として捕らえられ、抗議のために絶食死したのを皮切りに、母親、后が急死し、さらに、東北へ派遣していた軍隊が大敗北し、といったことが立て続けに起きます。犠牲になった者たちの怨霊にとりつかれ、不安にさいなまれた桓武帝が道に迷った山中で「最澄」に出会うのですが・・、という展開です。

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続く第3巻は、

このシリーズのもうひとりの主人公・空海の話です。第3巻の構成は

十二話 けものへん
十三話 胎内
十四話 空と海と
十五話 丹生の里・その一
十六話 丹生の里・その二
十七話 阿吽

となっていて、手に入る限りの四書五経や仏典をいくら読んでも、内部の「空虚」を埋めることができない空海(当時はまだ「真魚」という名前です)は、勤操和尚のススメに従って、土佐の室戸岬での「虚空蔵求聞持法」の修行を始めます。

彼がこれを勧めたのは、真魚(空海)の中に才能を見出しているためなのですが、勤操和尚が属する大寺の大僧正も真魚(空海)の中に才能と危険性を見出しているようです。

この「虚空蔵求聞持法」は、短い「言葉」ただ百万回繰り返すもので、何ヶ月もこれを繰り返すことによって、フツーの人が築きあげている仕事や家族、仲間といったものをすべて剥ぎ取っていく修行のようです。この修業の仕上げのとき、彼の精神を再び「人の世」に戻してくれたのは、彼の弟子で甥の「智泉」なのですが、この修業の様子は原書のほうで。

そして、この修業で何かを会得した空海は、吉野山の山中で「水銀」をつくっている「ツチグモ」一族の首領・ニウツに出会います。この水銀の製造で、この里はかなり豊なようで周囲の部族からその支配権と技術が狙われている状況です。物語の中では、特に「秦の一族」が執拗で狙っているようで、渡来人同士の争いですね。

そして、里の中に入り込んできた「秦一族」に雇われた侵入者を、「ニウツ」がその右腕を与えることで撃退します。その時の言葉の謎解きは本書中にないのですが、僕が推察するに永遠の生命の象徴となる水銀(辰砂)を取り込むことで、ニウツ自体が「不死化」しているということでは、と思ってみる次第です。

この事件の結果、真魚(空海)はニウツに、このツチグモの里を将来、山ごと引き受けることを約束します。この山の名が「高野山」というわけですね。また、ここから真魚は正式に名を「空海」と名乗っていくので、ここで正式に「最澄」と「空海」の物語の離陸です。二人は偶然にも、同じ「唐」を目指して進んでいくことになります。

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【レビュアーから一言】

実家の権威によって得た「官僧」というポジションを捨てても、その有名さから弟子入りの者が絶えない上に、時の権力者との縁ができていく「最澄」と、国家から正式に認定されない「私度僧」というところからスタートする上に、たった一人で激しい修行の道に入る「空海」と、二人の立ち位置は大きく異なります。
ここらが、これからの二人の関係性を象徴しているようですが、さて、その違いが歴史上どんな現れ方をするか、次巻以降のお楽しみ、というところですね。

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