敏腕警部補は意外にもアウトドア派で犬嫌いー大倉崇裕「福家警部補の追及」

小柄で眼鏡をかけた風貌と、いつも警察手帳がバッグのどこにあるかわからなくてもたもたしている様子から、警視庁捜査一課の凄腕警部補ととても思ってもらえないのだが、そこをうまく使いながら、犯人が仕組んだトリックの罠を次々はずしていって、犯人をおいつめていく「福家警部補」シリーズの第4弾が『大倉崇裕「福家警部補の追及」(創元推理文庫)』です。

【収録と注目ポイント】

収録は

「未完のピーク」
「幸福の代償」

となっていて、まず第一話目の「未完のピーク」は、有名な登山家が彼の息子のスポンサーとなっている企業家を殺した犯行を福家警部補が暴いていく話。

犯行は、登山家・狩の息子がチャレンジしようとしているチベットの未踏峰登山のプロジェクトへの資金拠出を、今までパートナーだった不動産チェーンの顧問・中津川が中止しようとするのを阻止するために彼を殺害するというもので、犯人の狩は、死体を少し離れた東京近郊の山まで運び、さらにはその山の滑落が起きやすい危険地帯から落として、偽装します。そして、この被害者が実際に登山したように印象づけるため、自分が頂上まで登り、そこの山小屋の管理人にアピールする、という「登山家」ならではのトリックですね。

これを本シリーズの主人公「福家警部補」がトリック崩しをしていくのですが、犯人の登山家が山歩きするスピードにしっかりついていったり、崖の犯行現場を身軽に上り下りしたり、といった行動で、インドア派の印象をくつがえすところが今話の特徴です。謎解きのヒントは、山小屋の管理人に印象付けるために持参した、被害者の「登山用の杖」というところなのでご注意を。

ちなみに、大倉崇裕さんの小説には山岳や登山をテーマにしたものも多いのですが。本篇の「倉雲岳」は架空の山。標高とか、奥多摩山系の奥のほうといった描写がありますので、当方は「雲取山」あたりがモデルかな、と思ったのですが、山に詳しい方でほかに心当たりがあれば教えてくださいな。

二話目の「幸福の代償」は、あぶない筋とつるんでペット販売で暴利をむさぼるとともに犬の虐待もしている悪徳ブリーダーの弟を殺害した、動物シェルターの運営をしながらブリーダーをしている姉のトリックを暴くもの。

姉の「佐々千尋」の動機は、弟の劣悪な飼育環境に閉じ込められた犬たちを救う、という目的もあるのですが、一方で、自分が経営するペットショップの土地が所有者である弟によって売り払われようとする経営危機から逃れる目的もあるようです。

彼女は、弟が要求する「ミニチュアダックス」を提供すると偽り、彼の住居を訪ね、油断させたところを撲殺。さらに、彼がつきあっている女性を彼の殺人犯と偽装したうえで、薬剤自殺にみせかけて殺してしまいます。

極度の「犬嫌い」であることが露呈した福家が、犯人の追い詰めを行っていくのですが、いつも犯人を揺さぶる手段として多用する「つきまとい」「夜討ち朝駆け」行為が今回はおとなしめであると思うのは僕だけでしょうか?

今巻の二話は、犯人のトリックの隙をついて犯人をぐうの音もいわないほどとっちめて、という前巻きまでで時折あったパターンではなく、犯人が追い詰められていき自白する、というパターンになってます。どちらの犯人も、自分の利益を計ろうというよりも、息子の将来を守ったり、虐待されている犬を保護するといった利他的な動機も混じっているせいでしょうか・・。

【レビュアーからひと言】

このシリーズの特徴は、最初のところで犯人が犯行を行っていて、その犯行を隠すためのトリックまで明らかにされているのを、探偵役の主人公がどうやってたどり着いていくか、というのが楽しみの「倒叙型」ミステリーであるのですが、デビューの頃は「マシン」のような印象と強かった「福家」が、推理以外はからきしダメ人間であることがシリーズが進むにつれ明らかとなっていきます。
彼女が警戒感を抱かれることなく犯人の懐に入って、犯人のミスをそれとなく指摘し、さらに何度も顔を見せてイラつかせることで失言などの墓穴を掘らせる、というのが典型的な「落とし」のパターンですので、犯人を油断させる材料は多ければ多いほど良いのかもしれません。

特に今巻は「登山家に負けないアウトドア」や「犬嫌い」、「冷たいおしるこ好き」といった思わぬ「突っ込みどころ」が明らかになる巻でもありますね。

Bitly

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