レア物の鉄道ミステリーは「路面電車ミステリー」ー山本巧次「阪堺電車177号の追憶」

タイムスリップした現代の失業OLが、八丁堀の女性岡っ引きとなり、現代の科学技術を使いながら事件を解決していく「大江戸科学捜査網 八丁堀のおゆう」シリーズの作者・山本巧次さんは、鉄道会社に勤務するビジネスマンでもあって、鉄道関係の「開化鐵道探偵」シリーズなど鉄道ミステリーも多いのですが、路面電車の古参電車を語り手に、路面電車の沿線でおきる謎解きが語られるのが本書『山本巧次「阪堺電車177号の追憶」(早川書房)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグー平成29年3月
第一章 二階の手拭いー昭和八年四月
第二章 防空壕に入らない女ー昭和二十年六月
第三章 財布とコロッケー昭和三十四年九月
第四章 二十五年目の再会ー昭和四十年五月
第五章 宴の終わりは幽霊電車ー平成三年五月
第六章 鉄チャンとパパラッチのポルカ
エピローグー平成二十九年八月

となっていて、舞台となるのは、大阪市で運行されている阪堺電車の沿線。停留所や、電車の車内でおきる様々な出来事の謎が解かれていく物語なのですが、いくつかの話に何度か登場する人物はいるのですが、特定の「探偵役」というキャストはなく、一話ごとに登場する探偵役の謎解きを、主人公の「一七七号電車」を中心に語られるという設定です。

第一章の「二階の手拭い」は、阪堺線のちょうど真ん中あたり、「塚西」駅の近くの商家の二階の欄干に、白い手ぬぐいが干してある、という謎とも思えないことから始まります。普通なら単なる洗濯物かと見過ごす話なのですが、その白い手ぬぐいは何日も干したままになっています。そこの商家の奥さんらしい色っぽい美女が取り込み忘れたままなのかと思っていると、ある日、その手ぬぐいが柄物に変わっています。そして、電車から降りた若い二枚目の男が手ぬぐいを確認すると、その商家らしき家に入っていって、という展開です。まあ、このシチュエーションだとよくある「浮気」の話か、と思っていると、ある時、その手ぬぐいが真っ赤なものに変わっていて、というものです。謎解きをするのは、この電車の車掌で、運転士と力をあわせて、この赤い手ぬぐいをしかけたスリたちを捕まえるのですが、この話にはさらに裏がありますね。

第二章の「防空壕に入らない女」はずっと時間が経過して、戦時中の話になります。当時、男性は戦地に徴兵されているため、女子学生が勤労動員で電車の運転士や車掌をしていた頃です。空襲警報をうけて、臨時運転手をしていた動員女学生の雛子は、乗客を誘導して防空壕へと導きますが、一人の若い女性の乗客が中に入ろうとしません。彼女は子供の頃、一緒に家の近くの横穴で遊んでいた男の子と一緒に生き埋めになりかけたことがあって、それ以来、暗い狭い穴に入れなくなったと言います。その男の子の生死も確認できなかったというおまけつきです。
その時は納得した、雛子なのですが、終戦後まもなくして、その女性が地下鉄へ降りていくのを見かけるのですが・・、という展開です・ただひとまず。この章では謎は謎のままとまなりますね。

第三章の「財布とコロッケ」では、電車に乗り合わせた食堂のコック・榎本章一が探偵役です。彼は、乗り合わせた二十歳前後の美人が落とした財布を、五年生ぐらいの小学生の男の子が拾ってそのままネコババしてしまうのを見つけます。
後日、財布を落とした女性に事情を打ち明け、その小学生から財布を取り返すことを企みます。その財布は彼女が就職祝いに三年前に母親から買ってもらった当時の最新の柄のもののようですね。
そして、その小学生を問い詰めると、彼はその財布が、一年生の頃に家出した彼女の母親のものと同じであったのでおもわず、と打ち明けるのですが・・、という展開。一見、可哀想な話っぽいですが、実は。美人を見た時の男性共通の動機が隠れていますね。

第四章の「二十五年目の再会」は、第二話の謎解きの話です。第二話の戦時中の出来事から四半世紀経過して、当時、女学生で電車の運転士をしていた「雛子」が、防空壕に入れなかった女性・中崎信子に再会して、当時の謎解きを確かめる話です。戦後、地下鉄に兄らしき人と地下鉄の駅に入る彼女を見て雛子がたどりついたのは、あの時の防空壕の中に、顔をあわせてはマズイ人物も避難していたのでは、ということだったのですが、信子から、彼女の兄が特高警察に目をつけられたいた、という話をきいて謎が解けていきます。そして、戦後、結婚した夫が急死したりといった信子の苦労を聞いた雛子は彼女に「何かあったら」と自分の連絡先を書いたメモを渡すのですが、それにはある意図が込められていて・・という展開です。

第五章の「宴の終わりは幽霊電車」は、バブル華やかなりし頃の地上げが横行していた頃の話。クラブに務める女性・アユミが、自分の父親のクリーニング店を地上げして一家を破綻させた悪徳不動産屋・相澤に復讐をする話ですね。復讐劇自体は、帝塚山近くの土地の地上げで、住人を騙したり、脅したりして立ち退きさせ、大儲けをたくらむ相澤の隙きをついてひっくり返します。今回は、一七七電車が、相澤に、彼が陥れてきた人たちの幻をみさせて止めをさしますね。

第六章の「鉄チャンとパパラッチのポルカ」は、現役最後の電車となった阪堺電鉄のモ一六一形の撮影をする「撮り鉄」の青年が、テレビの女子アナのスキャンダルを狙っているパパラッチを撃退するとともに、ビル内に侵入するための暗証番号を盗み取ろうとする空き巣狙いも捕まえる話です。偶然、その場に居合わせた「撮り鉄」くんのファインプレーと思わせておいて、第二章。第四章の雛子や信子につながっていく話です。

そして、物語の終わり、一七七号はいよいよ引退し、スクラップとなる運命なのですが、ここで昔の出会いが彼を新たな道へ、導いていくのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

【レビュアーから一言】

阪堺電車は、いわゆる路面電車というやつで、今どき絶滅に近いのでは、と調べてみると札幌から鹿児島まで、20路線がまだまだ頑張っているようですね。

(JAPAN WEB MAGAZINEの「日本の路面電車」、日本の旅ドットコム「路面電車に乗ろう」で詳しくレポートされてます。)

路面電車は都市内を走るだけあって、それぞれの駅が違った魅力と味わいをもっているもの。今巻ででてくる、「塚西」「我孫子道」「住吉」「帝塚山」「姫松」あたりの風情はいかがでしょうか。地元の鉄道マニアたちのレポートが見たいところです。

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