遊女失踪事件の黒幕を暴けー佐伯泰英「足抜 吉原裏同心2」

九州の小藩・豊後岡藩の下級武士であったのだが、藩の上役の妻となった幼馴染と駆け落ちして諸国放浪の末、吉原の四郎兵衛会所で遊郭内の揉め事を、陰で始末する「影同心」となった、神守幹次郎とその妻汀女の「幕府御免の遊郭・吉原」での活躍を描く「吉原裏同心」シリーズの第2弾が『佐伯泰英「足抜 吉原裏同心2」(光文社文庫)』。

前巻で吉原にたどり着いた後、剣の腕と人柄が信頼されて、正式の「裏同心」として雇われた幹次郎と、遊女の俳句指南となった汀女が、吉原の遊女の連続失踪事件の謎と、それを主導する悪党たちと対峙するのが本巻です。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 八朔の怪
第二章 血染めの衣
第三章 刺客走る
第四章 深川越中島哀死
第五章 吉原俄総踊り

となっていて、今巻は各章でおきる事件と連続遊女失踪事件が並行して展開する流れとなってます

第一章の「八朔の怪」の本編のほうは、吉原の大門の外で行われる集団掏摸を幹次郎がとっ捕まえる話です。無役の御家人が頭目となって行っていたもので、ここで幹次郎が吉原全体を守る用心棒として、吉原の評判を落とす悪党を退治する役目を担うことになります。

全巻を通じての事件のほうは、まず、松葉屋の「香瀬川太夫」が郭から忽然と姿を消してしまいます。「八朔の日」である8月1日は、本書によると遊女たちがそろって白無垢の袷衣で練り歩く行事が行われていたそうですが、部屋を抜け出した香瀬川太夫は、郭を出てこの行列に紛れ込んで姿を消したようですね。彼女の失踪の目的と、どこへ隠れ潜んでいるのか、というところで次章へと続きます。

第二章の「血染めの衣」では、香瀬川太夫の失踪事件に先駆けておきていた遊女の「市川」の失踪事件を調査するのですが、田舎の実家の母親が、その遊女が失踪した日からお百度を踏んでいることに幹次郎は疑惑を抱くのですが、謎解きは次章以降で。この章でおきる事件は、、赤穂浪士の浅野内匠頭ゆかりの大名家の藩士が郭に居座っているトラブルの解決です。居座り藩士たちは金を払うつもりは毛頭ないのですが、乱暴に追っ払うと、赤穂浪士の縁の者に意地悪をした、という評判が立つので、粋を大事にする吉原の遊郭としては扱いが難しいところですね。これをどううまい処理をするのかな、と思っていたら、意外に直球解決でした。

第三章の「刺客走る」では、失踪事件の三例目の調査です。谷保村の出身の「春駒」という遊女の実家へ赴くのですが、家族が惨殺されるという事件がおきます。この連続失踪事件の手引をしている犯人の仕業だろうと手がかりを探すうちに、この「春駒」が内藤新宿の金持ちを客にする会員制の遊郭にいるらしい、という噂をきき・・という展開です。

第四章の「深川越中島哀死」では、第二話で調査した失踪事件の当事者・遊女の「市川」が、深川越中島の越中島の岡場所・大新地の見世・船通楼にでていることをつきとめ、幹次郎たちが調査に乗り出します。彼女は吉原を足抜けして、船通楼に宿替えし、さらにそこを足抜けして完全に自由な身になることを企んでいるようですが・・、という展開です。この話までで、残念ながら足抜けした二人の遊女は死んでしまうことになります。

第五章の「吉原俄総踊り」はこの遊女連続失踪事件の解決編です。ここまでで足抜けの手引をしたのは、吉原のなかでも四郎兵衛の経営する山口巴屋の属する仲之町の七軒茶屋に対抗する揚屋町の茶屋の旗頭・壱番楼の主人のその一人であることは前巻まででわかってくるのですが、その奥の本当の「黒幕」の姿が明らかになります。少しネタバレすると、香瀬川太夫の身請け代を安価にあげようというケチな料簡なのですが、そこに太夫の上昇志向も絡んでいて、なんとも「粋」でない犯罪を、裏同心・幹次郎が懲らしめることとなるのですが、詳しくは原書のほうで。

レビュアーから一言

本シリーズでは、吉原の特別な恒例イベントがところどころに挟み込まれていて、第一巻では引き手茶屋の軒先に灯籠をつるす「玉菊灯籠」がでてきたのですが、今巻では8月1日に江戸城で行われる「八朔」の儀式を模して、遊女が白無垢で花魁道中をする儀式がでてきます。白無垢の遊女みたさに客は吉原にやってきたようですが、こうしたイベントの日は「揚げ代」も倍以上に跳ね上がったそうなので、見世からすると体の良い「特別料金」の日でもあったようですね。

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