男装の女王、エジプトに誕生ー犬童千絵「碧い瞳のホルス」4・5

今からおよそ3500年前、異民族「ヒクソス」の支配から脱し、エジプトをシリア、ヌビア地方まで領土を拡大した、エオエジプトの新王朝の時代にあって、義理の息子のトトメス3世と20数年間、共同統治し、「男装の女王」として君臨した、ハトシェプストを主人公に、政治家でもあり、一人の女性でもあった女王の活躍と苦悩を描くシリーズ『犬童千絵「碧い瞳のホルス」(ハルタコミックス)』の第4弾と第5弾。
前巻までで、義兄で、夫でもあったトトメス2世が急病にかかったところを毒殺し、王位を奪ったハトシェプストが、義理の息子の共同統治者として、先王が拡大した領土を継承して。エジプト王国の統治に乗り出します。

構成と注目ポイント

ハトシェプスト、国内巡視で平和政策発表

第4巻の構成は

第15話 新たな船出
第16話 ぶどう摘みの歌
第17話 王(ファラオ)の条件
第18話 彼誰の告白

となっていて、まずはトトメス3世とハトシェプスト皇太后の一番目の新規政策として、王都テーベから古都アヴァリスへと向けた国内巡視を始めます。この都市は、ヒクソスがエジプト支配の拠点としたところで、エジプト人とヒクソス人との下エジプトの支配権を巡っての長い戦いがあったところのようです。

この巡視の中で、かつて恋仲であった元側近で、今は建築家の頭領のウセルとなったセンムトと再会し、彼を再び側近として使うこととします。

しかし、同時にトトメス3世の教育係として、権力の奪回を狙うアメン神官スネルセトの息のかかった軍人がトトメス3世の教育係に任命されるなど、新政権の中での権力争いが活発化していきます。

この教育係となった軍人・ソベクがトトメス3世に王国を統べる軍人としての教育を施して、王の信頼を得ていきます。しかし彼がトトメス3世に仕えていたヌビア人の少年を、トトメス3世ので処刑させるとともに、ハトシェプストの夫となる野望をもっていたことを咎めて、彼女が彼を追放したことから、トトメス3世のハトシェプストへの憎しみが醸成されていくことになります。

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ハトシェプスト、「男装の女王」としてファラオへ

第5巻の構成は

第19話 魂の証明
第20話 沈まぬ星
第21話 獅子の落涙
第22話 男装の女王

となっていて、第4巻の最後で、トトメス3世の摂政ではなく、共同統治者である「ファラオ」になることを決意したハトシェプストは、「交易」によって国を富ませていく新政策をとることを決めます。

しかし、今までエジプト新王国は、武力によって「ヒクソス」の支配を打ち破り、隣国との戦争に勝利することによって大国となってきた「サクセスストーリー」がありますので、彼女の思惑通り、国が動いていくかは疑問のところが残りますね。

実際に、彼女の施政方針を聞いたレバノン、ヒッタイト、クレタ、アナトリアといった隣国の強国の大使たちは、王である「トトメス3世」の意向を聞かないと信用しない雰囲気です。ここでハトシェプストは、彼女が「ファラオ(王)」となることを決意するのですが、さて、これがどう転がっていくか・・というところですね。

大使たちを圧倒したハトシェプストの一行は、さらに南下し、最南端のエレファンティネ島で、隣国ヌビアのクシュ統一王国の族長たちと会合をもつのですが、ここで彼らと今後交流していくためには、エジプトが侵攻しない証として、ハトシェプストが自分たちの子供を産み、その子たちを人質として預けるようセクハラバリバリの要求をしてきます。この背後には、かつてハトシェプストから追放された、トトメス3世の元教育係の将軍・ソベクがいるのですが、族長たちとソベクへの、彼女の「冴えたやり方」は・・という展開です。

一方、権力のないファラオとなり、自暴自棄となり始めたトトメス3世は乳母のすすめで、女神イシスの巫女・サトイアフを妃とし、さらにアメンの神官・ハプスネプが彼の悲しみを癒やす役割を果たします。彼のすすめにより、トトメス3世が決断したことは・・、という展開です。この結果、ハトシェプストを除こうと今まで画策していたアメン神官・スネルセトが往生しますので、ここはスッキリしておきましょう。

このほか、ハトシェプストの娘・ネフェルウラーは、父親代わりとなったセンメトの天文学を教わったりと薫陶をうけていきます。ここから、もう少し先の未来の布石となっていくんでしょうね。

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レビュアーから一言

イアフメス王がヒクソスを撃退して以来の、エジプト新王国の軍事強国と征服拡大路線を、平和な交易優先路線に転換したハトシェプストの政策は、エジプトを富ませた一方で、国の国威を低下させたという評判もあって、ここらは評価が分かれるところですね。もっとも、父・トトメス1世、夫・トトメス2世と、国の総力をあげての対外戦争が連続していたので、高転びする前に、ここらで国力の回復を図る時期だったのかもしれません。

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