田沼老中失脚に乗じて吉原を奪う陰謀を阻止せよー佐伯泰英「見番 吉原裏同心3」

九州の小藩・豊後岡藩の下級武士であったのだが、藩の上役の妻となった幼馴染と駆け落ちして諸国放浪の末、吉原の四郎兵衛会所で遊郭内の揉め事を、陰で始末する私設用心棒「裏同心」となった、神守幹次郎とその妻汀女の「幕府御免の遊郭・吉原」での活躍を描く「吉原裏同心」シリーズの第3弾が『佐伯泰英「見番 吉原裏同心3」(光文社文庫)』。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 お針殺し
第二章 冬瓜の花
第三章 百面の銀蔵
第四章 義太夫の小吉
第五章 汀女の覚悟

となっていて、今巻は、江戸幕府の十代将軍・家治の逝去によって、喪中のため、音曲禁止・閉門弔停止となって休業中の吉原の様子から始まります。将軍様の代替わりの時には定例のことなのですが、遊郭だけでなく、茶屋、仕出し料理から物売り、芸者など、1万数千人が吉原関連で暮らしている大遊興地帯ですので、この営業自粛は経済的にも大きな影響だと推測されます。
さらに、家治時代に権勢を誇っていた田沼意次の失脚の気配もあり、誰が権勢を握るかで影響を受けることの多い業界なので、その意味でも一波乱が想像されるところですね。

まず第一章の「お針殺し」では郭の花魁たちの衣装を縫っているベテランの「お針子」お辰が、稲荷神社の境内で刺殺されるという事件。「お針子」といっても、花魁の衣装は高価なので、仕立て代も高い上に、端切れ布は自分のものにしてよかったそうですから、腕が良くて御贔屓のおおいお針子は、町のお針子と違って羽振りがよかったようですね。殺された「お辰」は、縫い代を貯めた資金をもとに金貸しもやっていたようなのですが、今回はその金を巡っての殺人で、お辰の親族関係を洗っていくことで犯人がわれるという単純なものですが、今巻の本筋の重要人物「大黒屋正六」の登場の誘導の役割をこの話がしているようです。

第二章の「冬瓜の花」では、ようやく吉原の「閉門停止」が解け、晴れて営業再開というところなのですが、ひさびさの再会で郭のほうも緩んでいるところを狙って、吉原の中でだけ通用する「紙花」という”地域通貨”のようなものを郭で大量にばらまいたうえに、その清算をごまかすという客が大量に出現します。損をするのは、「紙花」の代金をとりあえずたてかける「茶屋」で、これは、四郎兵衛会所の運営を請け負っている四郎兵衛と、茶屋への経済的な打撃を与える意図で行われていることが推測されます。「紙花」のシステムは、この当時の吉原独特のものなので、原書で読んでいただいたほうがよさそうですね。
そして、この事件の背後に、今回の将軍交代に伴う、田沼老中の失脚をとらえて、吉原の名主たちから実権を奪って、吉原の実験を握ろうという人物・見番処頭取・大黒屋正六がいることが明らかになってきますね、

第三章の「百面の銀蔵」では、前話の「紙花詐欺」の首謀者であった、「百面の銀蔵」というならず者がいよいよ牙をむいてきます。まず、彼を捜索していた吉原会所の若い番方と遊女を刺殺するのですが、これに会所や幹次郎がかかわっている隙をついて、吉原の遊郭の一つに客として登楼することに成功します。彼の狙いは、会所の七代目頭取・四郎兵衛の暗殺で、ということで、幹次郎の推理が試されるところですね。

第四章の「義太夫の小吉」では、今まで陰で糸を引いていた大黒屋がとうとう、吉原を采配している名主たちや、会所の四郎兵衛に叛旗を翻絵師始めます。ただ、大黒屋が主導権をもつ「見番処」は、芸者や幇間たちの指図もしているので、単純に排除することがでいないのが四郎兵衛たちの弱いところですね。大黒屋は、会所の勢力を力づくで壊滅するために外池流の達人剣士・桑名勘兵衛や浪人を多数雇い入れているのですが、彼らと幹次郎との対決がこの章の読みどころですね。

第五章の「汀女の覚悟」では、前章で幹次郎によって斃された「桑名勘兵衛」の愛人の女性剣士・篠部美里が、幹次郎の妻・汀女を誘拐して人質にして、勘兵衛の敵討ちを狙ってきます。
ここで、大黒屋が幕府の有力者に手を回して、吉原の実権を奪おうとする企みを打ち砕くため、四郎兵衛たちが尽力していた幕閣への政治工作がようやく日の目をみてきます。幹次郎と四郎兵衛たちは、大黒屋の陰謀と誘拐犯を叩き潰すため、彼らの隠れ家に向かい・・という展開です。ここでも派手な剣豪アクションがあるのでお楽しみに。

レビュアーからひと言

今巻で、吉原の実権を奪うために、敵となる大黒屋が賄賂を使うのが、十一代将軍・家斉の実父・一橋治斉卿ですね。この人は、最近の時代劇の中では「悪役」として登場することが多くて、今村翔吾さんの「羽州ぼろ鳶」シリーズや「くらまし屋シリーズ」、では主人公たちの明確な敵ですし、坂井喜久子さんの「「ぜん屋」シリーズでも、主人公の父親や夫も殺害した勢力の黒幕っぽい感じで扱われています。少し前の時代小説では、柳沢吉保か田沼意次が「悪役」の定番ぽかったのですが、ここでもキャストが変わってきているようですね。

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