鼠小僧が盗み出した”村正”を「おゆう」が探し出すー山本巧次「妖刀は怪盗を招く」

元OLのフリーター・関口優佳が、祖母が遺した東京下町の古い家の押入れから江戸時代へとタイムスリップし、江戸と東京を行き来しながら、南町奉行所の同心・鵜飼伝三郎配下の小粋な岡っ引きとして、江戸市中の事件を解決していく「関口優佳」こと「おゆう」の捕物帳の第7弾が本書『山本巧次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 妖刀は怪盗を招く」(宝島社文庫)』。

前巻までで現代の東京で分析ラボを経営する宇田川も臨時捜査メンバーに加えて、ますます江戸での「科学捜査」体制を充実した「おゆう」が、今回はあの有名な義賊が盗んだ銘刀の捜索に乗り出します。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 早すぎた鼠
第二章 村正の行方
第三章 刀好きの宴
第四章 刀は呪わず

となっていて、まず今巻は、神田松下町代地にある貧乏長屋のうち八軒に小判が投げ込まれるという出来事から始まります。一分(現在の価格で5万円ぐらい)や一朱(現在の価格で1万円ぐらい)なら使い込んでしまうのでしょうが、一両となる後でお咎めを受けても困る、ということで届け出されたもののようです。金が投げこまれた長屋は一つではなく複数あり、投げ込まれた金も一両から一分まで様々です。

時代劇でよくみる「義賊」のやることなのですが、有名な「鼠小僧」が登場する文政6年より、物語の舞台となっているのは文政5年で、時代的にはすこし早い時期です。しかし、それに気付かない「おゆう」こと優香が、この名前を口にしたために、この事件に関わる人達にインプットされることとなるのですが、この影響は物語の終盤のほうで効いてくるので、頭においておきましょう。

事件のほうは、この長屋への小判投げ入れ事件が発端で、近くの武家屋敷から金品が盗まれていることがわかるのですが、今巻で焦点になるのは、小判と一緒に、長崎奉行の任官を目指している大身の旗本・久松丹波守の家から盗まれた徳川家に災いをなすという伝説の「村正」の行方です。「妖刀」として有名な刀剣なのですが、市場に出回ることがすくないため、高額で取引されることも多い、という刀です。

この刀の捜索を、久松家から依頼されたお奉行からの命令で、同心の「伝三郎」や女岡っ引きの「おゆう」のところへお鉢が回ってきた、ということなのですが、ここで「おゆう」は現場の証拠調べのために、前巻と同じように、現代の日本で分析会社を経営している「宇田川」の助けを借りることにして・・という筋立てです。

ここで、大きな料亭・天祥楼を経営している武家上がりの崇善という男が「刀剣オタク」で、様々な名刀を金にあかせて集めていることをつきとめます。宇田川の科学捜査のおかげもあって、崇善がこの犯罪に絡んでいる容疑が強まり、おゆうは、彼が隠れ家としているらしい大川沿いの水車小屋に忍び込むのですが、という展開です。

事件のカギとなるのは、盗賊に投げ込まれたお金を使い込んでしまった長屋に住む浪人親娘の小橋紀右衛門と春江。彼は岩舟藩という小藩の御納戸役をしていたのですが、罪をきせられて放逐になったのことですが、本当は・・というのが謎解きのヒントですね。さらに、単なる刀剣オタクと思われていた料亭の主人・崇善の予想外の正体も明らかになりますので、ここから先は本編のほうでどうぞ。

レビュアーから一言

「村正」の妖刀伝説は、徳川家康の祖父・清康、父・広忠が家臣に殺されたときに使われたのが「村正」であったとか、家康の長男・信康が切腹したときに介錯に使われたのもそうであった、とか「徳川家」に祟りをなす刀として家康が禁止したという話に発端があるようです。
村正は切れ味の優れた「業物」として当時から有名で、家康や豊臣秀次をはじめ多くの武将が実践に使う刀として所持していたそうですから、この伝説も村正の優秀さを証明したものといえるでしょう。もっとも、幕末には西郷隆盛が倒幕の象徴として愛用していたそうですから、「徳川の天下を滅ぼす」刀であったのは、その意味で真実かもしれません。

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