「幸」は呉服業から一旦撤退。巻き返しをどうするー高田郁「あきない世傅 金と銀9」

大坂・天満の呉服屋・五鈴屋の女衆として奉公に上がった、村の寺子屋師匠の娘・幸が、この大店を引き継いだ後、女性実業家として店を立て直した後、女性が経営者になれない大坂のしきたりをかいくぐるため、江戸へ進出し、さらに事業を拡大していくサクセスストーリー「あきない世傅」シリーズの第9弾が『高田郁「あきない世傅 金と銀 9 淵泉篇」(時代小説文庫)』。

前巻で、江戸小紋の人気をとっての大儲けを、御公儀に目をつけられて命じられた多額の「上納金」を、元夫の両替商・惣次のアドバイスで三年年賦にすることに成功し、経営への痛手を最小限にとどめた幸たち五鈴屋の面々。そして、五鈴屋の「江戸小紋」人気を見て、他の呉服屋も参入してくる動きを牽制するため、新しいデザインに取り掛かったのですが、それが発端になって、姉妹の亀裂を産み、五鈴屋の呉服業に壊滅的な危機が降り掛かってくるのが本巻です。

構成と注目ポイント

構成と

第一章 ままならぬ心
第二章 ふたつ道
第三章 春疾風
第四章 伯仲
第五章 罠
第六章 菜根譚
第七章 帰郷
第八章 のちの月
第九章 大坂の夢 江戸の夢
第十章 出藍
第十一章 天赦日

となっていて、まずは、前巻の最後のところで、五鈴屋の手代・賢輔が図案を描き、型彫師の梅松が彫った「干支の型紙」を、「幸」の妹・結が持ち出して家出してしまうところから始まります。
彼女は想いを寄せていた「賢輔」の心が自分ではなく、何事も敵わなくて劣等感を抱いている姉にあることをしって、ヤケになっての行動です。しかも、型紙をもって飛び込んだのが、以前から「結」との再婚を望んでいた音羽屋のところで、結は音羽屋と結婚して、彼が買収した「田所屋」という呉服屋の株を使って新しい店を出す計画に加担することを「幸」に宣言します。

音羽屋と結が、新規店の目玉として用意するのが、結の持ち出した「型紙」をつかった「十二支」の小紋です。音羽屋たちは、この小紋を両替商の会合で結婚のお祝い品として、皆にプレゼントし、あたかも自店が開発したような仕掛けを始めるのですが、賢輔たちがこっそりと図案の中に忍び込ませた工夫が、この謀みを打ち砕きます。さて、その仕掛けは・・というところは原書のほうでご確認を。ここでも、幸の元夫・惣次が陰ながら助けてくれてますね。

この新製品横取り事件をなんとかクリアした「幸」たちなのですが、音羽屋の陰謀は止まりません。幸たちが、加賀・前田家に商品を売ったために、前田家と昔から取引していた老舗の契約が取り消され、これがもとで「呉服仲間」から除名されてしまいます。除名されてしまうと、役人からの無茶なお達しを防いでくれる後ろ盾もなくなり、商品仕入れも苦労することになるので、商売の継続はかなり難しくなります。幸たち五鈴屋は、呉服商売から一旦撤退し、もともとの「太物」、木綿や麻の商売に縮小することを余儀なくされます。これに乗じて、音羽屋と「結」は、五鈴屋の店舗デザインとか、無料の着付け教室とか、五鈴屋であたりをとったアイデアを全て真似をして、「日本橋音羽屋」を開店。大々的に呉服業へ進出し、武家屋敷や大奥まで商売を拡大する勢いです。
この容赦ない行動は、姉妹ではあるのですが、「幸」と「結」の性格の違いでしょうか、それとも、「幸」への劣等感の裏返しなのでしょうか。

そして、呉服の商売から撤退した「五鈴屋」の商売は、利幅が少ない「木綿」の商いに縮小され、今まで人気の源泉となっていた芝居小屋への納入も、「日本橋音羽屋」の女主人となった「結」に横取りされ、減収減益となっていくのですが、ここでへこたれないのが「幸」です。故郷・大坂で商売への闘志を充電するほか、大坂の周辺の大木綿産地と直に取引をするアイデアなど、次への飛躍に向けたネタが出てきていますね。もっとも、このあたりで、このシリーズの特徴の一つである「説教臭い」ところがでるのでそこは我慢が必要です。

で、この次の飛躍への商売ネタの一つとなるであろう、木綿の「鈴の文様染め」に、型染め師の「力造」が挑戦するのですが、果たして成功するのか・・・というところの詳細は本書でどうぞ。

レビュアーから一言

本シリーズも年代的には「宝暦7年」になりました。五鈴屋が太物に商いを絞ってのはじめての初売りで、馴染みのお客が伊勢木綿を買い求めて「太物商いに舵を切られたとのは良かった。正しいことだ」とつぶやくところが最終章のところででてきます。宝暦5年の凶作や八代将軍・吉宗時代の増税が原因で一揆が頻発し、宝暦8年の郡上一揆では幕府の老中など幕府高官が処罰されたり、田沼意次が台頭してきているにですが、ここらに関係してくるのでありましょうか。
そして、このシリーズと特徴として、調子こいて慢心している人物が急落することが通例なので、「幸」を踏み台にして、急激に商売を拡大している「結」の運命が心配なところでありますね。

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