センゴクは大名に復活するが、秀吉政権内の争闘始まるー宮下英樹「センゴク権兵衛 21」

美濃・斎藤家の落ち武者から国持大名にまで出世したのに、自らの突出によって島津との戦に敗戦して改易。一家離散のどん底から再び国持大名まで出世。さらには徳川二代将軍のときには「秀忠付」に任命されるなど徳川幕府の重鎮となった「仙石久秀」のジェットコースター人生を描く「センゴク」シリーズの第4Season『宮下英樹「センゴク権兵衛」』の第21巻。

前巻までで、後北条家を無条件降伏させ、ほぼ日本全国を支配下におくことに成功した秀吉なのですが、自らの死後も睨んでの豊臣政権の長寿命化を図るための戦後統治策が次々とうたれて行くのが本巻です。センゴクも、九州討伐での大失敗以来の牢人生活から城持ち大名に復活して、本格的に大復活劇がスタートしていきます。

構成と注目ポイント

構成は

Vol.173 新たなうねり
Vol.174 天下人の胸中
Vol.175 静かなる闘争
Vol.176 物申す
Vol.177 家康の心中
Vol.178 復帰
Vol.179 命運
Vol.180 密議
Vol.181 大望
Vol.182 新しい波

となっていて、軍資金不足もあって、小田原の後北条家の豊臣包囲網から離脱して美濃の蟄居先に牢人衆とともの引き上げたセンゴクたちのもとへ、秀吉から「信州小諸」を所領として与えるという書状が届きます。

小田原城攻めでの活躍で、金団扇を与えられ(本シリーズでは無理やりっぽい雰囲気もありましたが)、島津攻めでの命令違反を許されたとはいえ、5万石を与えられるのは、相当な厚遇とも思えるのですが、実は、鎌倉以来、この地の城主であった依田家の依田信蕃が戦死している難治の地を押し付けるのと、牢人衆を抱えたセンゴクを放置しておくと内乱のもととなりかねないのを防止するという策ですね。

しかし、本来なら感謝すべき命令に対し、センゴクは、「小諸」ではなく「讃岐」のほうがよい、と不満をぶちまけるといって、関白・秀吉のもとへ向かいます。この少し前に、加増こみの国替えについて不満をもらした織田信雄が改易されてするので、かなり危ない行動なのですが、実は、同僚であった「尾藤知宣」が恩赦を願い出て、かえって秀吉の怒りをかって処刑されたことに対する不満と懸念を直に訴えるのが目的です。
天下をとってから、冷酷な政治家としての側面が強化されている秀吉から、センゴクはどう扱われるのか、というところなのですが、ハラハラしつつも、尾張以来の「繋がり」は健在だった、という筋立てです。

ここで、この二人の間に入ってとりもつのが、徳川家康です。豊臣政権が末期となるにつれて、徳川方へと変貌していくのですが、すでにこのへんから始まっているようですね。
徳川家康のほうも、滅亡した武田家の忠実な家臣で、徳川家に反感をもっている真田家への楯とするのと、豊臣方に包囲されることの防止、という目的があるようなので、食えない狸親父ではあります。
もっとも、家康も、センゴクが恩義をうけたら、それを裏切らない武将であることは信頼しているようですね。

そして、天下を統一した後の戦後の統治策なのですが、織田信雄は改易、徳川家康は畿内の経済圏から離れた東国へとおいやって、徳川家の勢力を干しあげたてしまっているので、秀吉の目は、海外へと移っています。父親の代から筋金入りの貿易商でもあった小西行長ら九州の大名たちを駿府に招き、これからの対外政策を議論することなるのですが、主題は「銭」を中心とする経済をまわしていくための、海外進出の密談ですね。

秀吉の「唐入り」については、織田信長の海外政策の劣化コピーだという話もあるのですが、本書では、壮大な「通商圏」創設策の一環としてとらえられていた、ここは斬新な解釈ですね。政治家あるいは権謀家としての本領を発揮し始めた「秀吉」の本領発揮というところなのですが、ネタバレはしないので、原書でご確認ください。

レビュアーから一言

今まで、戦争などの「荒事」が中心であった本シリーズなのですが、この巻の終わりあたりに、この当時流行の中心であった「茶の道」の総帥・利休が登場します。歴史小説では、権力を象徴する秀吉と、文化を象徴する利休との対立が描かれることが多いのですが、「戦国」の様々な姿を描いてきた本シリーズではどう料理されるのか、楽しみでありますね。
ついでにいうと、利休と彼の愛弟子・古田織部と、信長・秀吉・家康の象徴する「権力」との戦いを描いた「へうげもの」との対比も興味深いところです。

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