バツ2のイケメン刑事が7つの異色事件の謎を解くー中山七里「七色の毒」

若い頃は俳優養成所に通っていた経歴をもつイケメンながら、職務中に知り合った被害者との浮気が原因で「バツ2」の離婚経験者。男の嘘は見抜くことは巧みだが、女性の嘘は全く見抜けない、という警視庁捜査一課の敏腕刑事・犬養隼人を主人公にしたミステリーの第2弾が本書『中山七里「七色の毒 刑事犬養隼人」(角川文庫)』。

前巻で、臓器移植に関連した連続殺人事件を解決して、今まで無視されて続けていた娘の沙耶香から少しは口をきいてもらえるようになった犬養が、赤、黒、白、青、緑、黄、紫の7つの色が象徴的に現す7つの事件の解決に挑みます。

構成と注目ポイント

構成は

一 赤い水
二 黒いハト
三 白い原稿
四 青い魚
五 緑園の主
六 黄色いリボン
七 紫の供花

となっていて、今巻は、7つの掌編で構成されているのですが、第一話と第七話以外はの関連はない独立話仕立てになってます。

一 赤い水

まず第一話の「赤い水」は、長距離バスが高速道路を走行中に防護柵に激突して一人の死者と多数の重傷者を出す事故に隠された事件を、犬養が見つけ出すものです。事故は運転中に病気か疲労でで眠ってしまった運転士がハンドル操作を誤って柵に激突したもので、防護柵の津米に左側からぶつかったもので、車体の左側は大破したのですが、右側が原型を残していて、死者は左側前方に座っていた老人だけで済んでます。この事故がきっかけで、長距離バス運転士の健康管理や運転体制が世上問題になるのですが、犬養は、事故を起こした運転士が事故直後のインタビューで、うろたえることなく、謝罪の言葉をきちんと述べたことと、被害者がいつも同じ座席に座っていることから、事件の臭いを嗅ぎだして・・という展開です。「赤い水」というのは被害者が勤務していたアルミニウム工場から出る廃液の色ということですね。

二 黒いハト

第二話の「黒いハト」は、中学校でおきた中学生の飛び降り自殺に隠された事件です。その中学生は同級生からいじめにあっていて、それに耐えかねて、母親に遺書めいたことを電話した後、衝動的に屋上から飛び降りたのですが、学校の校長や教師、教育委員会が真相を隠蔽しようとします。しかし、自殺した中学生の”親友”春樹の批判の一言を発端に糾弾の波が広がっていき、校長やいじめの首謀者の同級生は、世間を敵にまわす言動や行為を繰り返した末に自滅するという展開ですね。しかし、生徒が自殺した屋上の扉の外側のノブの指紋が拭き取られていたことから、犬養は、自殺の本当の原因と陰に糾弾劇を引き起こした真犯人をつきとめるのですが、それは意外にも・・という筋立てです。

三 白い原稿

第三話は、少々陰りが出たとはいっても、まだまだ人気のあるロック歌手で、新人文学賞も受賞したロック歌手兼作家が公園で胸にナイフを刺された状態で死んでいるのが発見されるという事件です。彼は文学賞受賞当時は「天は二物を与えた」ともてはやされてのですが、受賞作がとんでもない駄作なことがわかりヤラセ受賞でさんざん叩かれている時に死亡した、という設定ですね。
この事件には、その文学賞の連続落選者が犯人だと名乗り出るのですが、真が刺殺ではなく、「凍死」と判明し、真相は藪の中へ。この事件を担当することになった犬養が、死んだロック歌手兼作家が準備していた「受賞後第二作」の痕跡を作家のPCの中に発見したところから真犯人が手繰られていきます。死んだ作家や落選者をしゃぶりつくそうとという出版業界の「闇」がけっこう新鮮です。

四 青い魚

第四話は、常連客がメインの儲かっていない釣具店の事件です。その釣具店の店主は高齢独身状態だっのですが、ある時、天真爛漫でちょっと「天然」な若い女性と知り合って同棲生活を始めています。しかし、そのうち、彼女の兄と名乗る男も店に入り込んで同居し始め、店主の弟が店の乗っ取りを企んでいるのでは、と心配しているうちに・・という筋立てです。店主とこの男女は、「ハギ釣り」に出かけることとなり、釣船で沖へ出るですが、突然二人が豹変し・・というまあ、おきまりの展開なのですが、ここで予想外の仕掛けがされています。ネタバレのヒントは、温暖化の関係で今まで知らない「毒魚」が日本近海で釣れるようになってきた、というところです。

五 緑園の主

第五話はサッカー部の中学生が都営グラウンドでの自主練から帰宅途中に毒を嚥んで死んでしまいます。捜査を担当した、犬養はその中学生が表面は優等生なのですが、裏の顔は相当の性悪で、近くに住んでいるホームレス襲撃の常連であるとともに、テントに火をつけてホームレスを大やけどさせるという事件を起こしています。この襲撃されていたホームレスの誰かが毒を盛ったのでは、疑いをかけるのですが、ホームレスのつくったものを疑いもなく口にするとは思えません。中学生たちがいつも練習している広場の近くに住んでいて、よくボールが庭にとんでくる老夫婦のもとに聞き込みに出かけるのですが・・・、という展開です。

六 黄色いリボン

第六話の「黄色いリボン」は性同一障害の男子小学生が遭遇する事件。彼は外では「男子」として生活をしていて、家に帰ってから初めて女性を服を着て生活をしています。彼は、住んでいる団地内では、男の子の妹「ミチル」と名乗って生活しているのですが、ある時、「ミチル」あてのダイレクトメールが届きます。
「ミチル」は架空の存在で、団地外では名乗ったこともないのですが、なぜ・・という展開です。この男の子は架空の存在の「ミチル」が実体化して、自分の体を奪おうとしているのでは、という妄想にとりつかれるのですが、謎解きの垣が、「ミチル」への変装が両親も「承知の上」で団地内での外出が許されているところですね。

七 紫の供花

第七話は第一話の後日談的な話。第一話で事故をおこしたバス会社の運行責任者をしていた高瀬という男が、腹部を刺されて自宅で死んでいるのが発見されます。このバス会社は事故後、法的な責任は問われなかったものの悪評判がたち、経営破綻をしています。このため、事故で怪我をした乗客たちへの賠償も十分なものになっていない、という設定です。
そして、この事故の被害者は軽傷者が多かったのですが、事故の怪我のためにオリンピック強化選手を断念した女子陸上選手もいて、高瀬が自分の生命保険金の受取人に彼女を指定していることがわかります。ほとんど面識のない彼女を受取人にした被害者の真意は、そして、このバス会社の経営破綻は木偽装ではないか、という疑いもでてきて・・という展開です。
まあ、ひと言でいうと、第一話の黒幕の「贖罪」の物語ですね。

レビュアーからひと言

本巻では探偵役として「切り裂きジャックの告白」で登場した、男の嘘は簡単に見抜くが、女性の嘘はからっきしという「無駄に男前」な敏腕刑事・犬養隼人が務めるのですが、彼のその整った顔を使った「おとしのテクニック」や食いついたら離れない「獰猛な犬」のようなしつこさといったところは影をひそめていて、至って冷徹な「謎解き」が多くなっています。その分、被害者、加害者の心象風景がくっきりと描き出されている物語が連続します。
ついでにいうと、どんでん返しの先にさらに隠し扉があるような筆者お得意の「仕掛け」の数々もしっかりあるので最後まで楽しめること間違いなしの短編ミステリー集となってます。

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