新しいビジネスに必要なのは「世界観」ー水野学×山口周「世界観をつくる」

熊本県を一躍メジャー自治体にした「くまモン」や、地味な印象の強かった相模鉄道のトータルデザイン、あるいは中川政七商店のブランド・デザインなど、商品開発から長期的なブランドデザインまでのブランド戦略の凄さと確かさで有名なクリエイティブデザイナー・水野学氏と、「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」や「ニューエリートの時代」など、時代の潮流と企業社会に対する未来観の確かさで定評のある研究者・山口周氏の対談が本書『水野学・山口周「世界観をつくる 「感性×知性」の仕事術」(朝日新聞出版)』です。

構成と注目ポイント

構成は

はじめに
Ⅰ 意味をつくる
 未来の会社がつくっていく「価値」とは?
 モノが過剰、便利が過剰、正解が過剰
 文化h亜文明を後追いする
 「役に立つ」という市場
 世界のモノサシが「オリンピック100メートル走」になったなら?
 今こそ「モノ」の時代
 「文明という学校」をトップで卒業した日本の進路
 自動車の「意味」はヨーロッパの貴族文化から始まった
 「日産自動車」と「Google」の決定的な違いとは?
 電線に分断された日本の美意識
 便利を捨てる勇気・判断する勇気
 なぜ、「これがいい」と選べないのか?
 企業がためらいを乗り越える二つの方法
 個人が「役に立つ正解」に拘ってしまう原因
 世界のすべてのブランドは、日本が生み出した?
 中国のドローンが日本のブランド化の起爆剤となる?
 バルミューダというオルタナティブな実例
 大切なのはセカンドペンギン
 クリエイティブ・リーダーシップの時代
Ⅱ 物語をつくる
 「ターゲット=自分」という設定ミス
 ターゲットはベン図の全体にいる
 「意味がある」はCMで表現できない
 世界観を伝えるには?
 説得の時代から共感の時代へ
 デザインの本質は人格を与えること
 「矢沢永吉」というネーミングが矢沢ブランドをつくった
 パタゴニアとAppleの社名に見る世界観
 ターゲットが食べるのは「どん兵衛」か「カップヌードル」か
 観察し続けること自体が才能である
 「007」のレバリッジ大作戦
 世界観にもアップデートが必要である
 もしもアポロの月面着陸がアメリカのPVだったら
 世界観をつくるには?
 利休のやっていた「デザインしないというデザイン」
 エルメスの月と日本人の月見
 新しい価値をつくる
 世界観は知識からはじまる
Ⅲ 未来をつくる
 ブランドの世界観はどうつくるか?
 日本の「マス」を捨ててグローバル化する
 レッドオーシャンこそ自分の居場所が見つかる
 マッキンゼー流・デザイン経営は機能するのか
 「一人電通」だったレオナルド・ダ・ヴィンチ
 携帯電話がガラケーになった理由
 企業がクリエイティブ・ガバナンスをつくるには
 アラン・デュカスにカップヌードルをつくらせる
 ココ・シャネルの前と後
 AIがあればデザインは不要なのか
 デザインの学び方とは?
 なぜ今でも「センス」が怖いのか?
 石斧と印籠とiPhoneの「デザイン」
 精度が大切
 言葉にも精度を
 デザインが未来を連れてくる
おわりに

となっていて、まず時代認識的には、山口周さんの著作「ニュータイプの時代」に書かれている「現在の世の中では、「問題=困っていること」が希少になっている」状況の中で、日本企業が得意としてきた「役に立つ」モノを生み出す力の効力がなくなってきている、というところをまずおさえておきましょう。このことは「ニュータイプの時代」ではかなりキツイ口調で言われていたのですが、

モノをつくっても売れない時代になった今は、わがままが必要です。スティーブ・ジョブスはものすごくわがままな人だと思いますし、わがままは面白がる力につながります。それなのに、正解にたどり着くことばかり求められて、面白さのアンテナを切ってしまっている人が多い気がします。

というあたりには、「あー」と頷く人も多いのではないでしょうか。今回のコロナ禍で生まれた「新しい働き方」「新しい暮らし方」の萌芽も、「Go To」なんとかで浮かれているうちに、ビフォーに戻った感があるあたりにそれを強く感じますね。
これは、日本企業の復元力の強さといえなくもないでしょうが、

「頭ではわかるけど心は動かない」と「頭でわからないけれど心は動く」を比べたとき、これから必要なのは後者ですよね。説得の時代の20世紀が終わって、これからは共感の時代だと僕は捉えています。

という時代状況の中では、 コロナ以前の やり方が通用しなくなりつつあるのは誰もが実感として感じているところで、その意味で、本書のいう「世界観をつくる」というキーコンセプトに反応しておいたほうがよさそうです。
そして、そのためには

山口)世界観がつくれる人やブランドづくりのセンスがいい人は、いわばプロットメーカー。優秀なプランナーは、いろいろな映画や文学作品に親しんでいる人が多くて、いろんな世界観を自分の中に持っています。よく言われる「引き出しがたくさんある」ということでしょうね。
水野さんの表現だと、まさに「センスは知識からはじまる」です。その知識は高尚だったり、とんがったものばかりじゃない。映画でも文学でも名作として世の中に残っているものは、その世界観そのものに普遍性やポピュラリティがあると思います。
水野)知識を増やすには残業ばっかりしていたらダメで、インプットが必要です。

ということなので、ワークスタイルの変化も必至だということは覚えておきましょう。こういった点でも、昭和的な「働き方」は駆逐されていくんでしょうね。
で、こうした時にやる気を削ぐのが、「そこは参入難しいよ」とか「すでにオワコンだよ」という冷水を浴びせる「冷静な人たち」の存在なのですが、本書によると

水野)海つながりで言うと、レッドオーシャンってあるでしょう。 「レッドオーシャンは競合がたくさんいて勝ち目がないから、敵が少ないブルーオーシャンを目指せ」という話です。でも、僕はそれって少し疑間です。
日本はこれだけモノもサービスも盗れていて、どこの海も真っ赤っかだけれど、やりようはある。

であったり、

山口)本当にいろいろなところでレッドオーシャンに「物語」で参入することは可能だと思います。非成長の成熟産業で、過当競争の上にスペースあたりの売上が小さいカフェ業界で、スタバが成功できたんですからね。

ということなので、何かを始めようとしている人は必要以上に悲観したり、諦めたりせずに、自分の思う道を進んだほうがよいようですね。「モチベーション、いい仕事を生み出す最強のエネルギーです」ということなので、まずは迷わず進んでみよう、というのが大事なようです。

本書は、この時代のビジネスコンサルタントの先頭をいく二人が、これからの企業ブランディング、ビジネスの方向性などについて語り合ったものなのですが、意外に「熱い心」を吐露した仕上がりになってますので、(精神的なところも含めて)若いビジネスマンは一読をおススメいたします。

レビュアーからひと言

本書の「はじめに」のところを読むと、もともとは、現代という時代を代表する二人が「これからの企業がどうなるべきか?」を自由に語る対談として始まったものが、これからのビジネスをリードする概念として「世界観」というものに結びついていったという過程で出来上がった本のようです。
つまりは、あらかじめ何かの結論を用意してつくられたものではなく、二人の知性が「会話」の中で練りあがっていったというもので、紙上で繰り広げられるアドリブ・セッションを見ている感じがして、ある種の知的爽快感を覚える対談集に仕上がっています。

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