安楽死殺人犯の本当の動機は何?ー中山七里「ドクターデスの遺産」

若い頃は俳優養成所に通っていた経歴をもつイケメンで女性の嘘は全
く見抜けないが、男の嘘は確実に見抜く、組織の枠から外れっぱなしの敏腕刑事なのですが、職務中に知り合った被害者との浮気が原因で「バツ2」となりつつも、別れた妻に親権のある腎臓病で療養中の実の娘を(「塩」対応のことが多くても)生きがいとしている警視庁捜査一課の刑事・犬養隼人を主人公にしたミステリーの第4弾が本書『中山七里「ドクターデスの遺産」(角川文庫)』です。

2020年秋に綾野剛さんと北川景子さんの主演で映画化され、「実在の医師」をモデルに描かれた禁断の「クライム・ミステリ」ということで、「安楽死」の問題をテーマにした緊迫したのミステリが描かれます。

構成と注目ポイント

構成は

一 望まれた死
二 救われた死
三 急かされた死
四 苦痛なき死
五 受け継がれた死

となっていて、今回の出だしは警視庁の通信指令センターに、病気療養中の父親が「悪い医者」に殺されたという小学生からの電話が入るところからスタートします。

彼(ダイチという名前のようですが)からの訴えを電話を受けた司令センターの担当警官が、犬養の相棒・高千穂明日香に電話したことで、もともと刑事畑よりも生活安全畑に興味があった明日香のフライング捜査が始まります。道連れにされた犬養は最初事件性はないと思っていたのですが、臨終を確認したかかりつけの医者が来る1時間前に禿頭の医者がやってきて注射してすぐ帰ったという話から、遺体を検死にもちこみ、結果、遺体から心不全を引き起こすカリウムが大量発見されることになります。
事件のほうは、犬養が得意の「オトシ」のテクニックを使って、死んだ父親の妻を、息子をネタに自供させ、彼女が「ドクターデス」という医者へ礼金20万円で安楽死を依頼したと自白させるのですが、ドクター・デスはHPで依頼を受け付けていて、どうやら複数人から依頼をうけて安楽死を実行しているらしいことがわかってきます。

この事件の報道が引き金となって、警視庁に、ドクターデスに殺された人物がいるという情報から第二の事件が発覚します。事件のほうは、化学工場の爆発事故の巻き添えになった従業員が殺されたというもので、彼が詰め所のモニターの警告を見逃したことが事故につながったとされているのですが、入院治療中に苦しみながら急死したというものです。

この後、拡張性心筋症を長期間患っていた被害者とか、総資産400億、傘下企業23の大企業グループの総帥とか、ドクターデスが手をかけた事件は続々と発見されるのですが、ドクターデスの顔かたちなどがほとんど印象に残らない人物のため、捜査はとても難航することとなります。途中で、犬養が腎臓病を治療している娘の沙耶香を使って、ドクター・デスをおびき出そうとするのですが、これは見事に失敗。隠していた沙耶香の病室も突き止められて、塩化カリウムの詰まった点滴バッグが届けられるなど、逆の脅しをかけられることなりますね。

ドクターデスのほうは特徴がつかめず捜索を難しいのですが、同行している看護師のほうは確保に成功します。しかし、彼女もドクターデスに1回6万円で雇われていた、と主張し、わかったのは「ドクターデス」の「名前」まで。手がかりのほうは、デスが安楽死を実行した現場に残されていた「土」に混じっていた「藻」からだんだんと捜査の輪が狭まってきます。そして、とうとう、江戸川の河川敷に住んでいるホームレスたちに混じって暮らしている「ドクターデス」を見つけ・・という展開です。
捕まえたデスから今までの犯行について語られる動機とは・・、ということが始まるかとおもいきや、捕まえた「ドクターデス」は実は本体ではなく「操り人形」。本当の「・ドクターデス」は・・という感じで物語が動いていきます。最後の最後までどんでん返しが続くので、振り落とされないように読んでいきましょう。

レビュアーから一言

本作は、安楽死という問題をテーマにして、積極的安楽死を主張するジャック・ケヴァーキンというアメリカ人医師のエピソードを使いながら展開される「社会派」ミステリであるのですが、「ドクターデス」の名前を使った偽装安楽死殺人が仕込んであったり、人形使いが実は人形であったり、というトリックが仕込んであったり、最後に犬養が自分の信念に反するてひどい失策を余儀なくされたりと、ミステリとしてもドンデン返しが続いて、最後までどう転ぶかわからない展開が魅力です。映画と小説のどちらも楽しんでみてはいかがでしょうか。

https://amzn.to/3nGenIS

コメント

タイトルとURLをコピーしました